虎の尾を踏む男達 [Blu-ray]
能や歌舞伎のパロディだと言われ、皮肉にも検閲にひっかかった関所越えの翻案。しかし、黒澤監督の映画や他の芸術への真摯な態度を考慮すると、むしろ日本固有の題材を世界の人々に分かりやすい音楽映画に置き換えた野心作のような感じがします。勧進帳に何も書いていないことは、外国人でも、エノケンの表情を見れば分かるんじゃないですかね。 ただ、文語の歌詞と大河内傳次郎のセリフは、現代日本人には分かりにくいので、字幕つきで見ることをおすすめします。 BDの画質のおかげで、藤田進演じる富樫が弁慶の忠臣ぶりに心打たれているとき、なぜか肩に蝿が止まるのに気付きました。
虎の尾を踏む男達<普及版> [DVD]
この作品の最大の特色は短いことだろう。何しろ1時間弱なのだから。
しかし、内容は濃い。弁慶役の大河内傅次郎の1人舞台といってもおかしくない構成だが、森雅之、志村喬といった達者な俳優が脇を固めている。特に弁慶と富樫(藤田進)の問答の場面は言葉の真剣勝負のテンションの高さに唸る。義経主従とわかっていても関所を通す富樫は情があって惚れ惚れする。
そしてエノケンの起用。トリックスター的な役回りを十分果たしており、喜劇役者は芝居上手という定説の正しさのよい見本だ。
後の蜘蛛巣城や隠し砦の三悪人にも引き継がれたコーラスの使用のアイデアが早くも本作で活かされているのが興味深い。
45年製作なのにGHQの方針で52年まで公開が遅れたいわくつきの作品。検閲のばかばかしさを示す好例だ。