貸間あり [DVD]
「幕末太陽傳」が大好きなので その続編と言われる本作を見ることは長年の願いだった。今回DVD化されたことで漸く見る機会を得た。
原作者の井伏鱒二が激怒した事で有名となった本作である。原作は未だ読んでいないので比較しようがないが この作品はまず一筋縄では行かない傑作である。
「幕末太陽傳」という明るい喜劇に「主人公の結核」という隠し味を加えた川島監督の複雑振りが 本作にも十分に出ている。
一見 スラップスティックの どたばた映画のように出来ているが その奥には 相当の「毒」が隠されている点を強く感じた。
出てくる登場人物は 全て 滑稽な味わいながら 善人が殆ど居ない。これは「喜劇」という設定では中々有り得ない事であり その分 本作の味わいが奇妙で濃厚になっている。僕らは見ていて笑っているが だんだん 妙な底意地の悪さで 居心地が悪くなってくる。
主人公のフランキー堺も 「幕末太陽傳」の佐平次に非常に似た設定ながら 佐平次より遥かに内向的で 逃避的な姿勢が最後に色濃く出てきてしまう。それまでの颯爽とした活躍振りもあいまって見ていて はぐらかされた思いだ。
「サヨナラだけが人生だ」という井伏鱒二の訳詩の一節が 本作では繰り返される。川島の口癖だったとも聞く。その奇妙に明るい虚無感が 間違いなく この映画の基調になっている。
こういう複雑な味を持つ喜劇は余り見たことがない。それほど 衝撃を受けた作品となった。
ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫 (021))
小学校3年くらいの頃、母が買ってきてくれたこの本。
そこには、広がる世界の神秘と冒険の物語が書かれていました。
動物好きで、動物の本ばかり読んでいた私は、むさぼるように
このシリーズを読みふけった記憶があります。
その後、これをお父さんが、子供に書いた小説だと知りました。
こんな小説を自分に話せたらすばらしいでしょうね。
この本の表紙を見るたびにこみ上げるものがあります。
きっと、あなたのお子さんも動物が好きになりますよ。
ドリトル先生航海記 (岩波少年文庫 (022))
この物語は、別世界を舞台にしているわけでも、魔法が出てくるわけでもありません。けれど、ドリトル先生は、魔法使いというわけではなく動物語を話せます。学習したのです。飼っているオウムのポリネシアとの会話から始めて、一つ一つ動物語を覚えていきました。
動物語を話せる不思議な人物ドリトル先生というより、努力してそうしたスキルを習得した先生という描き方です。動物語が話せるドリトル先生は手の届かないヒーローではないのです。ドリトル先生の助手となる語り手のスタビンズ少年も、はじめは「とうてい覚えることができないだろう」と思っていたのに、少しずつ話せるようになっていきます。
本当の会話とまではいかないまでも、ペットの欲求などを理解し、ある程度コミュニケーションがとれていると思っている人は多いでしょう(私もそうです)。動物語を話せるという設定は、魔法ほどには飛躍せず、私たちがあり得ると考えていることの延長線上にあるのです。あり得ないけれど、あったらいいなといったレベルです。
『航海記』に出てくる漂流島もそうですね。陸地の一部だったのが本土からはなれたとき、内側の殻になったところに空気が入ったから浮いているのだと、説明がなされています。そんなアホなと思いますが、あったら楽しいな、です。
常識と地続きのファンタジーとでも言えばいいでしょうか。
地続きですから、魔法が出てくるファンタジーを読むときのように、非日常のルールを受け入れるために頭を切り換える必要はありません。ドリトル先生について行けば、ごく自然に楽しい世界へと導かれてしまいます。
ただし、常識はいつの時代のどの場所でも同じというわけではありません。この物語は八十年以上前に書かれていますから、今の時代に読むと、少し違和感を覚える部分もあります。
闘牛を止めさせようと、牛たちと作戦を練るドリトル先生。私も闘牛は好きではありませんが、それも一つの文化であることは確かでしょう。問答無用に切り捨てられるほど簡単なことではありません。また、漂流島では、「魚が料理してないのを知ったとき、私たちはびっくりすると同時に、がっかりしました。島の人たちは、ちっとも変に思わないふうで、生のままでおいしそうにたべました。」。私たちの常識では、別に不思議でもなんでもないですよね。でも、島の人たちが魚を生で食べているのは、火を知らないからだという理由付けをして、ドリトル先生たちは、自分たちの価値観に従って指導をします。
この辺りは、自分は文明社会の住人であり、だから正しいのだと思いこんでしまう危うさの事例として読むことができますね。
そうした部分を含みながらも、この物語は、あったら楽しいな的な冒険の喜びを今も伝えてくれています。
黒い雨 (新潮文庫)
著名な文学作品でも意外と評価が星五つで維持されている作品は少ない。だから、名前だけは知っていたけれども、この作品のページを見たときにはちょっと驚いた。このレビューは12件目になるわけだが、11件の状態で星五つなのだから、これは相当高い方だ。それで食指を動かされて早速読んでみたのだが、他のレビューアーの方の高評価の原因が分かった。高名な文学者に対する媚びへつらいでも何でもなく、この作品はホントに素晴らしいものだ。
黒い雨というタイトル。ちょっと詳しい人なら原爆の本だと分かるかも知れない。原爆症を背負った主人公の原爆当時への回顧がこの本のベース。原爆症だと疑いをかけられているために縁談がいつもうまくまとまらない養女扱いの矢須子のために自分の原爆日記と矢須子の日記を比較させようとするため、また、図書館司書との約束で日記を清書するため、などの動機付けがあって主人公の八月五日から終戦までの日記を辿っていく。抑揚のない重みのある文体である。爆心地から二キロの地点で被爆した主人公の第一人称で、原爆の悲惨な有様が殆ど主観を交えずに語られていく。当事者の語るそれは悲惨である。また、同時に原爆直後を生きた困窮しきった人達の生活も見えてくる。作品の終盤で黒い雨に打たれ、病魔にむしばまれていく矢須子の病状からも戦争の無惨さを思い知らされた。評価を続ければきりがないが、特あげておきたいのが、特定のイデオロギーにこの本が縛られていないこと。原爆関係の本は本当に嫌というくらい左翼っぽかったりするが、この本は本当にごく自然な形で原爆直後の様子が描かれている。そこから著者の無言のいたわりと、戦争への想いが語られているわけだが、誇張して暴論を振り回すのではなく、本当に日常的な観点から描かれているという点でこの本は本当に評価されるべきものだと思った。
日本人が心にとめておきたい一冊。そう評価していいと思う。
黒い雨 [VHS]
黒い雨とは核爆弾投下された現場に降る高濃度放射能入りの雨のことです。
本当に黒くなるんです。かなりの部分が実話だそうです。
…偶然そこに居ただけで被爆してしまった方々の魂の慟哭が役者の名演技を通してテレビから心を揺さぶり続ける…核兵器がこの世から消えて無くならない限り。
一人の日本人としてこの映画を減点出来る人はどうかと思います。
★五つ以外無のではないでしょうか。
今の国際情勢ではDVD化されないだろうなあ…永久に…。