デパートの屋上に上がったまま大きくなりすぎて下りられなくなった象、インディラ。
家の壁と壁の間に挟まれて抜けられなくなってしまったミイラ。
バスの中に住み、太りすぎて出られなくなったマスター。
狭いところに閉じ込められて身動きが出来なくなったその状況を「仕方がない」と不満一つ言わずに引き受け、そこから逃げ出すことも抗うこともせず、黙々と自分に出来ることを一つ一つ行い、できる限り誠実に日々を過ごしていく人たち。
そういう名もなき存在に心惹かれる主人公は、最後まで名前を持たなかった。
彼の名は、ただ「リトル・アリョーヒン」と名指されるだけだ。
アリョーヒンは伝説的なチェスの名手だった。
そのアリョーヒンの姿を模して作られたチェスを打つ人形。人形がチェスをさすテーブルは、かつてマスターが彼にチェスを教えてくれたチェステーブルだった。その人形のテーブルの下に隠れ、彼は人形として様々な人々とチェスをさし、美しい棋譜を刻み続けた。
「リトル・アリョーヒン」とは、その人形の名前でもあり、中でチェスを打つ彼のことでもある。
たぐいまれなるチェスの腕前を持ちながら、マスターの形見であるチェス・テーブルの下を自分の居場所として引き受け、有名になるためでもなく、お金を稼ぐためでもなく、勝つためでさえもなく、ただただ美しい詩を紡ぎ出すためにチェスを指し続けた彼の、はかなくも濃密な人生。
彼の一生をたどるとき、人が生きるということはこういうことなのだと静かに納得させられてしまう。
かつてチェス盤の上で自分と美しい詩をともに奏でた老嬢が、もはやチェスの存在そのものも忘れてしまうほど衰えていることを知ったとき、それでもリトル・アリョーヒンは決して落胆することはなかった。
もう一度、その老嬢にチェスを教えることに喜びを見いだしていくのだ。
恐らくその老嬢は二度とチェスを打てるようにはならないだろう。どれほどチェスについてわかりやすく教えたところで、もはや彼女が新しく何かを身につける可能性はゼロに近いはずだ。
それでも、リトル・リョーヒンは老嬢にチェスを教えようとした。
なぜなら、たとえすぐに忘れてしまうとしても、チェスに触れ、その世界に少しでも足を浸すことができれば、その一瞬一瞬が生きる時間となることを知っていたからだ。
人生の半ばを過ぎて、自分自身の小ささを突きつけられ、「おまえはどこにもたどり着けない、ちっぽけな存在だ」という事実を引き受けざるを得なくなった人に、それでも精一杯生きることは無意味ではない、と小さな声でささやき心を支えてくれる。
この作品は、そんな力を持っている。
1.ミイラ怪人の呪い ハマーのミイラ怪人物3作目。 ハマー怪物役者の一人、エディ・パウエル演じるミイラ怪人が目覚めるシーンが特に怖い。 神経質な細身の美貌に不似合いな巨乳をもつマギー・キンバリー、英国版山村聡とでもいうべきジョン・フィリップスの利己的な俗物性、一番頼りになりそうなアンドレィ・モレル教授の意外な顛末もインパクト充分でした。 マイケル・リッパーが小心者のロングバロー役でハマー出演作屈指の好演を見せています。 ハマーの顔、ピーター・カッシングが冒頭シーンのナレーションでのみ参加。 家庭的雰囲気でハマーカラーに大いに貢献していた自前のブレイ・スタジオ最後の作品でもあります。 2.悪魔の花嫁 イギリスの諜報員〜黒魔術物の国民的作家だったデニス・ウィートリー(ホイートリー)作「黒魔団」の映画化企画を自身がハマーに持ち込み主演したクリストファー・リーお気に入りの作品。 1930年代のイギリスを舞台に正邪の魔術師達の戦いを描いており、特撮や性急な導入部に弱みが有る物の、後の日本のオカルト作品への強い影響(「エコエコアザラク」と言う呪文が唱えられている!)を感じさせるウィートリーの作風を俳優の演技中心に撮ったテレンス・フィッシャー監督の手腕とドラマチックなジェームズ・バーナードのスコア、そして、堂々たる風格で、主人公の公爵を演じたリーが実に良く、終盤の魔法陣内の攻防もBOX内では本作のみ導入された5.1chの音声がスリルを盛り上げて居ます。 いつもテンポが良いフィッシャー監督としても端折り過ぎの導入部は、英国では誰もが知っている作家作品の映画化だからなのでしょうか。 単発で終わってしまったのが残念な作品。 3.恐怖の雪男 未だハマーがホラーに本腰を入れる前の過渡期的作品です。 秘境探検物で、後にハマーの屋台骨を背負うカッシングと、アメリカの渋い俳優、フォレスト・タッカーを招いて主演させています。 監督ヴァル・ゲスト、脚本ナイジェル・ニ―ルと言ったBBCのSFドラマからハマーに関わった二人のコメンタリーは戦前から50年代半ばにかけての貴重な英国映画事情も含めて聴き所満載です。 50年代終盤としては直截な描写で有名なハマーが表題の雪男をはっきり見せない技法を使用した珍しい作品です。 映像特典は解説、スタッフ&キャスト紹介、フォト・ギャラリー、予告編以外では、作品毎にTVで放映された名場面集「World of Hammer」が 1には「MUMMIES,WEREWOLVES & THE LIVING DEAD」 2には「HAMMER STARS:CHRISTOPHER LEE」 3には「HAMMER STARS:PETER CUSHING」 各々に収められて居ます。
収録作の知名度は高く有りませんが、粒揃いで見応えの有るBOXでした。
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