名画の背後に潜んでいる、一目ではわからないその絵の真意を暴く本だ。形式としては高階氏の『名画を見る眼』と同じように、一枚の絵に数ページの解説が20もの絵画についてあるのだが、選ばれた絵はどれも何処かで見たことのあるような有名なもので「ほほう、この絵は本当はそういう意味があったのか」と感心することが何度もあった。何処から読んでも構わないし、どの解説も読みやすいものなので、一読をおすすめする。
ただ、ドガの『踊り子』の絵や、ジェリコーの『メデュース号の筏』など、真実を知ってしまうと後味が悪いものもある。「知らなければ良かった」と思う人もいるかも知れない。
個人的には、ホルバイン『ヘンリー八世像』が最も興味深かった。「肖像画を描く」という事が恐怖になり得るということに戦慄を受けた。
「あー文庫化されている!」と思わず手に取りました。
久しぶりに読み返しましたが、やっぱり抜群におもしろかった!
絵画は、「ただ眺めるだけ」より、絵の背後にある事情や美術史、ヨーロッパ文化の知識があったほうが、
重層的に絵が読み解ける、このことに異論を唱える人はあまりいないと思います。
でも、難しい専門書でお勉強するのはちょっと大変です。
中野さんの文章を読むのはお勉強でなくエンターテインメント。
「絵が物語ってくる」ことを味わわせてくれます。
物語り、ストーリーテリングの妙が魅力。
そして文庫版で感じたのは、これはヨーロッパ史に切り込むミステリーでもあるということ。
貧困、堕落、金、女、ギリシャ神話、キリスト教、美術が人の心を惑わすこと、処刑、殺人、王室の悲劇などなど。
絵画という「メディア」を通して、断片的に歴史の底から浮かび上がってくる泡のような、澱のような物語たち。
怖いんだけど、悲しいし、滑稽でもあるし、……う〜ん、とにかく楽しいんです!
文庫版は紙、印刷ともに美しく、上品で、どっぷり美術鑑賞の気分に浸れます。
文庫版の紙と印刷の具合のほうが、個人的には好きかなあ。
だから、絵が小さくなっちゃうからな〜と文庫版の購入を控えている方も、一度手に取られてみるといいかと思います。
文庫版のほうがぎゅっと凝縮された感じで、
ひっそり、ひとりきりの涼しい美術館で、静かに絵が語る言葉を聴いているような感覚。
これこそ読書の快感と思わせてくれる本です。
もういっこ、ちなみにですが、書き下ろしで追加されている2章は、ドレイパー『オデュッセウスとセイレーン』、
そしてメーヘレン『エマオの晩餐』です。
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