一見難解に見えますが、よく観ると、人間味溢れる、美しくシンプルなメッセージをもった作品です。
「自分だけ恵まれていない」とか、「生きているのがつまらない」と感じている方にお薦めします。ささやかな希望を優しく心に吹きこんで、「生きていること」の美しさを肯定してくれると思います。
作品の意図は、たとえば、劇中のひとつの台詞に象徴されます。かつて天使から人間に転向した人物が、いまだ天使である主人公に、「人間はいいぞ。君も人間になれよ」と語りかけるシーンです。
つまり、死も痛みも哀しみも感じずに済む(天使は不老不死という設定)天使に較べ、人間は不条理や悲しみも甘受せねばならないリアルな世界に生きています。しかし、幸せであれ不幸であれ、「生きて」いるということの“奇跡”に対する純粋な歓びは、無限の時間を保証され、ただ人間界の出来事を超越的な立場から記録するだけの天使には味わえません。
そのことに気付いた一人の天使は永遠の生を捨て、敢えて、不条理や悲しみの手触りを求め、リアルな生へ、有限な生へと惹かれていきます。天使も人間になってしまえば、天使だった時のように全てが手に取るように分かるわけではないけれど、不運も歓びも一つひとつ自分の五感でリアルに感じ取っていくことに、まさに生きることの醍醐味がある。そんな人間讃歌の温かいメッセージを感じます。
誰かと一緒に見る際の面白みの一つは、天使と人間の対比が、どのようなものの比喩として描かれているのかを読み解いてみることではないかと思います。十人十色の解釈が出来る楽しい映画ではないでしょうか。
まず先に言っておきたい事は、物語やテーマを追って映画を観る人は退屈と思われるかもしれません。
これはジョン・カサヴェテスとピーター・フォークという二人の名優の芝居をとことん味わい尽くすための映画だからです。
たった一晩、二人は夜の街をただ走り回ります。逃げる為に、追う為に。しかし、組織のいざこざを越えて展開していく二人のじゃれ合いは何とも愛おしく、かつ切なくなってしまいます。
劇場公開で感じたあの「まるで刹那的な夢を見たような感覚」をいつでも体感出来ると思うと、今からウキウキです。
僕にとって「これ以上、何を望むのか、いや何もいらない映画」(勝手に定義)の頂点なのです。
いやはや臭いところもあるのだが、88年の日本封切時に2回ほど観たし、VHSのビデオでもレンタルで2回ほど観て、今回またまたDVDを買って観てしまった。
色んなことを思い出したが、今回観てわかったこともある。
ホメロス役のクルト・ボウ(この人、凄い役者だったらしい)が見ていた写真集はアウグスト・ザンダーのものだったのだな。表紙が「舞踏会へ向う3人の農夫」だったし、中の写真もザンダーのものだった。 特典映像がこういう特典には珍しく愉しかった。カット映像はもうひとつだったが、壁を巡るシーンのあの荒れた場所は、ソニーのビルが建っているということがヴェンダース自身のナレーション付き映像でわかった。う〜ん感慨深い。ニッポン国の国民経済は、この後89年あたりからバブルへ突入するのであったな。 あの、すべての間違いの発端へと。
まあ、それ関して言えば、この映画の封切の年に当方は“大都会”大阪で少し遅めの会社員を始めたのであった。そちらのほうが一層感慨深い。 カラヤン、昭和天皇、大岡昇平といったところが亡くなり、この映画で描かれたベルリンの壁は89年に無くなった。東欧各国の雪崩を打った政権瓦解。この年に消費税3%課税導入。91年にはソ連崩壊。 以来、20数年会社員をやっているわけである(ある意味よく続いているなあ。団塊ジュニア世代からすれば鬱陶しいだろうなあ。みんな早く去ってくれと思っているだろう)。 ひょっとするとそういう感慨がないと、この映画を手放しで褒め称えることは出来ないかもしれない、だろうな?
当時は、ブルーノ・ガンツより、オットー・ザンダーにシビレタな。ガンツはアンゲロプロスの『永遠と一日』の名演が忘れられない。マルチェロ・マストロヤンニよりは少し落ちるが。 ヒロインのソルヴェイグ・ドマルタンは『夢の崖てまでも』でもヴェンダースと組んでいたが、その後二人は破局した、ということまで特典映像でわかる。 ピーター・フォークはやはり観ていて愉しくなる役者。渥美清か? 笠知衆だな。コロンボ刑事モノは小学生の頃から観ていたが、この人ほんとうに天使かもよ!
映画の最後、「終わり」ではなくて「まだ続く」と表示され、3人の天使に映画が捧げられている。小津安二郎、フランソワ・トリフォー、アンドレイ・タルコフスキーである。う〜ん、応えられん。
そんなこんなで大いに甘いかもしれないが、★5つ献上します。
付け足しでもう1点。この映画、呟き映画なのですな。天使は人間たちの心の呟きを拾って歴史を紡ぐ。ツイッターを予見した?? ちと違うか?
以前発売されたデジタルニューマスター版は英語タイトルロールだったので残念に思っていた。(イマジカ版はドイツ語タイトル)最初のわらべうた、台詞のほとんどがドイツ語であり、パッケージや解説リーフレットを見て鑑賞を楽しみにしていたが非常に残念であった。今回発売するBlu-rayに期待します。 ※追記 この商品はパッケージはドイツ語タイトル。本編は英語タイトルだと…これは詐欺だ。
このBOXの編集意図はヴェンダーズの求める映画における「画=イメージ」の形、その希求の道程を示すことにあるのではないでしょうか? 例えば、『東京画』ですが・・・。小津安二郎が、不朽の名作「東京物語」(53)を生んでから30年後。彼を深く敬愛する映画作家ヴェンダースが、現代の東京を訪れる。小津映画ゆかりの2人の映画人との感動的な対話を通して、雑多で無秩序なイメージが氾濫する街にも、汲み尽されていない純粋な「画=イメージ」が、いまだ存在することを確信するに至る経緯が、旅日記風に描かれていくドキュメンタリー作品です。単なるオリエンタル趣味のお気楽外国人の珍道中記などではないことは明らかです。この映画でなされた哲学的思索が、次作「ベルリン・天使の詩」(87、カンヌ映画祭監督賞)で結実、それが珠玉の映像詩として世界中で絶賛されることとなると考えられます。
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