寺社奉行の配下としてあやかしと戦うチームの活躍を描く、実写化して特撮時代劇・・・にしてみて欲しいと想うシリーズもの。 出撃シーンはかなり現代的だし、会話にも東宝の怪獣ものや大映の妖怪ものが出て来るし、著者がかなり楽しんで書いている。六人目のメンバーとなる子狸が可愛い。一匹欲しいな。 大団円と想わせておいて、ちゃんと次巻への「引き」もある辺りが巧い。 しかし、この感じだと、次巻かその次巻辺りでクトゥルー神話になりそうな気がする。
新刑事コロンボでは「大当たりの死Death Hits the Jackpot」の名前で映像化されている作品。
3000万ドルの宝くじを当てたカメラマンの死が発端となる。各章の名前はすべてカクテルの名前というしゃれた雰囲気で、謎解きにもカクテルの名前が絡む。チンパンジーの指紋が決め手という想像を超える意外性が最高。
コロンボには「初老の男」という言葉が使われ、結婚25周年を迎えることなど、結構たくさん出てくるエピソードによって、この頃のコロンボの具体的雰囲気が上手く表現されている。事件解決直後「誰にも邪魔されずにカミさんと旅行へ行こう」とつぶやくコロンボ。なんて素敵なハッピーエンド。
スコッチ・カースン「ルイジアナの魔犬」 山田章博の扉絵が良い。ティンダロスの猟犬と戦う話だが、M−16の射撃で射殺出来るとは知らなかった。ティンダロスでなら殺す事も可能だろうが、こちらの時空では物理法則が異なるので不死身に近いかと想っていた。 魔犬の原題はHellhoundsとなっているが、実はクトゥルー神話ではティンダロスの猟犬とは別の存在がこう呼ばれる事もあるらしいので、少々厄介。だが、ティンダロスから来ていると云うし、球体の部屋(つまり角度が無い)が出て来たりするので、矢張りティンダロスの猟犬なのだろう。 ティム・クーレン「沼地を這うもの」 楢喜八さんの扉絵が良い。ホジスンの「異次元を覗く家」も妙に軽いイラストに変えられてしまったし、この人の挿絵をハヤカワSF文庫に復活させて欲しい。 作者は近年ラヴクラフトの「狂気山脈」の続編にその続編を長編で出しているが、その内容はアメリカ大作映画風で文庫で上下二分冊で出る割にはボリュームが感じられずアッサリ読めてしまいあまり中身も印象に残らない・・・と云った作品タイプで、下品な罵り言葉を多用した会話や、「狂気山脈」で滅び行く哀れな種族だったOld Oneを只の悪役にしてしまったりで、シリーズとしては今も続いているがあまり好きになれず、又、ヒアデス星団へ向かった宇宙船がとある惑星で発見した異星人の廃墟でハスターらしき存在に遭遇し襲われる短編も知ってはいるがそれ程好きになれるものではなかったのだが、この作品はまるで違う。ラヴクラフト作品の要素がふんだんに取り入れられていてオマージュとして良く出来ている。どうやら幅広い作風の作者らしい。一筋縄では行かないな。 グリン・バーラス&ロン・シフレット「ウェストという男」 作者の一人シフレットは、クトゥルーのセミプロジン界では名前の通っている人物で、書き手としてはオカルト探偵ものが得意で、シリーズ・キャラクターも居るが、中でも20世紀前半のアーカムを舞台に、インスマスのレストランでウエイトレスをしていたアーカム美人を秘書にした古き良きパルプノワール風の探偵のシリーズが面白い。 本作はハーバート・ウェストを悪役に「いかにも」な感じの軽妙な文体で進むオカルト・ノワール。 レイフ・マグレガー「ダイヤー神父の手紙」 キリスト教の反進化論論者達を書簡のみで構成した抱腹絶倒の小品。真面目に書簡の内容を読んで行くといきなり・・・ サイモン・ブリークン「扉」 ドリームランドものをも想わせる様な短編。真相は構成からすぐに予想がつくものの、美事。 ロバート・E・ハワード「矮人族」 ハワードのピクト人もの。初期の作品らしいが後に原稿が一部失われた状態で発見され、そのまま発表されたものの翻訳。途中が抜けているが、それでも作品の魅力は損なわれておらずハワードならではの迫力がある。メインとなる兄妹の姓がコスティガンだが、ハワード作品の主人公には幾人ものコスティガン(男性)があり、本作の主人公である兄のコスティガンが、それ等のうちの一人なのか、新たなコスティガンなのかはよく判らない。 ラムジー・キャンベル「コールド・プリント」 「暗黒星の陥穽」ではヰゴローナクと表記(福岡洋一:訳)されているイゴローナク自体が登場し、アイホートの名前が初登場する作品。 自己中心的な雰囲気を漂わせる本好きの主人公がイギリスのブリチェスターで(町の真ん中で)遭遇するクトゥルーものにしては珍しいクリスマス・シーズンの作品。イゴローナクが人間大の存在でしかも自分の司祭を自らスカウトしており、人間との会話も可能な事から、寓話的な都市奇談と云った趣がある。 朝松健「The Faceless City #1 狂雲師」 星辰が元に戻りクトゥルーが覚醒した後のアーカムを舞台にしたハードボイルドな雰囲気の作品。連作となるらしいが、主人公が神野十三郎・・・って、逆宇宙シリーズ二作で主役の一人だった?これは続きが楽しみ! コリン・ウィルソン「魔道書ネクロノミコン 捏造の起源」 筆者が執筆したネクロノミコンの執筆裏話。笑った。ジョージ・ヘイがL・ロン・ハバートの一番弟子だったと云うのも初めて知った。 西崎憲のエッセイや、立原透耶、鷺巣義明と云った諸氏のコラムも面白かった。 マット・カーペンター(!)のクトゥルー・インフォメーションも、こんなのが出ていたのか、と云った感じで実に有用。 さて、次回、夏の号は6月半ばの発売予定。今から楽しみだ。
黒衣伝説といえば、まず今は亡き大陸書房から出たノベルス版が思い浮かぶ。 ノベルス版は現在でははっきりいってかなり入手困難だが、 今回の復刊…それも完本としての出版は非常に嬉しいことだ。 さてこの書を読むに当たって十分留意して欲しいのは、 「これは小説」であるということである。 なぜなら、これを読んでいると「一体自分が何を読んでいるのか」 分からなくなるからである。 もし、これを小説と認識することができなくなったら… あなたはもう退きかえせません。
この作品は、本所真っ暗町の妖怪長屋を舞台に繰り広げられる壮大で胸がわくわくする物語のはじまりである。これまで歴史もの、とくに室町物の優れた短編小説をいくつも書かれた朝松健氏だが、本作においてもその練達の筆や語り口はなお一層冴えわたり、さまざまな歴史的事実や事件を単なる披瀝や羅列に終わらせることなく、それらを複層的に重ね合わせからませ氏一流の味付けを施すことによって、江戸時代の市井の妖怪や人々の息遣いを見事にユーモラスに描き出すことに成功している。だから、読み手は本作を手に取るや一気に読み進めずにはおられないのである。現代の閉塞きわまりない時代に、かような胸のすくような小説が待たれていた。痛快なる傑作シリーズの誕生を心から喜びたい。続編が今から楽しみだ。
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