火の鳥2772 (MF文庫 9-11)
1980年というから、今から27年前!立ち読みしたあの本を、何度買っておくべきだったと後悔したことか!あの名作を、あの巨匠が、他の人物に描くことを許すなんて、余程、その人物の力を買っていないとあり得ないことですよね・・・。
当時、巨匠と言われつつ、手塚治虫としての絵としてこれからの進め方にもしかしたら悩まれていたかも知れぬ人物と、当時、若手の劇画画力No.1として期待された人物の奇跡のコラボレーション!御厨氏は、当時、ノーラの箱舟やら、裂けた旅券でその画力で知られていましたが、映画「火の鳥2772愛のコスモゾーン」では、あくまでメカデザインとして参加。(アニメ自身も、「口の動き方が、手塚アニメの割には、妙に実写ぽい所が、違和感。」という評価があったように記憶。この頃は、皆試行錯誤の頃だったのかも・・・。)
しかし、その御厨氏が劇画家として、劇画のページ数のしがらみに縛られつつも、一つの作品としてこの作品を仕上げています。掲載されたインタビューを見ると、「やはり手塚氏は、御厨氏にとっても神様なのだったな。」とは思いますが、それでも、油が乗って、これからも伸びていくのだろうなと思われた頃の御厨氏の劇画が拝見できるのはファンとしては有難い。
初見の方も、手塚氏が、モンスターあるいは美しい火の鳥の二面で描く火の鳥が、劇画風に描くとこうなるのかという一例を見ることができるだけでも一見の価値ありかと思います。
裂けた旅券(1) (ビッグコミックス)
押入れの段ボール箱から年に数回、思い出したように取り出すのは
20代に親しんだコミック本。その頃は、人物造型や背景の作画が
リアルなものを「劇画」、そうでないものはすべて「漫画」と勝手に
区別していた。
動物キャラやロボット物が苦手で、日常世界を舞台にしたアクション物が
好きだったので、この「裂けた旅券」に出会って心躍った。
背景はリアルだが、人物は作者独自の魅力的な造型で、主にヨーロッパの
政治経済情勢を背景に、フリーで働く中年男と愛くるしいフランスの
10代娘が繰り広げる、痛快なサスペンス、コミカルな人情味とペーソスに
あふれ、しかも奥の深い話に強く惹きつけられた。
特に、元少女街娼のマレッタの魅力は素晴らしい!
浮気性の豪介の本妻役のように振舞い、小生意気で理屈屋で、いざとなったら
度胸の据わった姉御のように頼もしい、実は淋しがり屋の多感な少女という設定は、
その後のアニメや映画で繰り返し描かれたキャラクターではなかろうか?
その意味で、御厨さと美氏の創り出したこのマレッタは、傑出した少女キャラ
と思える。
その後、本シリーズを終了され、コミック本とはまた違うメディアへと進出
されたとのことだが、ファンとしては惜しい限りであります。