豊かさの罠―「縦破壊」による日本新生への建白書
1965年名古屋市に生まれ、大蔵省に入省したが、米国留学後、日本の価値観の通用範囲の狭さと個の確立の必要性に気付き、1994年退官し、ふるげん未来塾を主宰している著者が、その翌年に刊行した「日本新生への建白書」。現在の日本は豊かさを実感し得ず、国内的にも国際的にも信頼性を得ていない上、政党もタレント候補に頼って不信を助長している。著者はこうした現状の打破のために、昔の家に代わるボランティアを活用した社会的福祉、メディア情報の限界の認識と実体験の重視、援助する側と援助される側の認識落差の確認、迅速な対応とコスト削減の為の広域的危機管理体制の構築と多様な地域設定、ボランティアバンクの創出、社会的流動性の確保、宗教(!)の原点帰り、失敗学の必要、説得による権力行使の必要、相対評価教育から過程に注目した絶対評価教育への転換、株主中心の会社運営、引く勇気、地方主権(地方政党創出、国との対等な連携)、身近な問題でターゲット層を特定した新たな自由な雰囲気の政党の創出、都市と田舎の二極分化の解体、多様な価値観に基づき共感の輪を広げることによる下からの民主官従社会の形成、マルチメディアの情報発信によるネットワーク化、高齢者の活用、ボランティアのように自ら行動し自分を生かし人のためにもなることを個々人が多様なレベルで見つける必要、情報公開、タブーなき議論、顔の見える仲裁役としての外交への転換などを提唱する。個別的に気になる点はあるが、その基本的な現状認識の正しさや対案の多様さ・具体性は平易さと共に本書の魅力である。楽観的すぎる感もあるが、あくまでも行動のための建設的なスローガンを立てようということだろう。問題はこうした方針をどう具体化していくか、またその為にどう議論を社会に根付かせていくか、ということであろう。