からゆきさん おキクの生涯
タイトルに引かれて購入。読み始めたらあまりに面白くて一気に読み終えた。
内容は被差別部落に生まれた1人の女性「おキク」が「からゆきさん」としてマレーシアに渡って、数奇な生涯をおくったその軌跡を詳細にえがいたもの。
読み始めて驚いた。著者が徹底的に現地・現場を確認していることだ。あとがきを読んでなるほどと思った。著者は十数年も前から「からゆきさん」に興味をもち、おキクの生誕地や東南アジア諸国を何度も訪問したという。国会図書館に3人で200日も日参し、資料コピーが天井に届くほどになったというからその徹底ぶりがわかる。
この本は調査が徹底しているばかりではない。たった1人の生涯をえがいているだけなのだが、読む人に多くのことを考えさせる構成になっている被差別部落のことについて著者は大上段には何も主張していない。しかしおキクの生涯を追っていくことで読む者に明確なメッセージを送っている。戦前の日本という国が女性をどう扱ってきたのかも良くわかり「女性問題」としても奥深いものがある。また国家と個人の関係についても考えさせられるものがあった。
「からゆきさん」という戦前の問題を取り上げながら、著者は現代の日本および日本人に多くのメッセージを送っているのではないだろうか。若い人を含め、多くの人にぜひとも読んでもらいたい本だ。