いきる
今までの由紀さおり像では考えられない多方面から詩と曲を集め、11の曲に表現された人間像は、全て”私、由紀さおり”と宣言し、11の切り口から”由紀さおり”を表現している。過去の集成に目を向けるのではなく、これからの10年をターゲットにしたと告白する。その宣言のとおり、大人の女性の心の隅にうごめく恋心から、《真綿のように》にでは”歌手 由紀さおり”を語り、多面的な人間像を表現し、アルバムを開くたびに、違った”由紀さおり”を聞かせてくれるほど奥が深い。11曲それぞれの完成度が高く、”これだ!”と単独の曲が目立つのではなく、”いきる 由紀さおり”というアルバム全体が、強く11の人間模様をアピールしている。アルバムを開くたびに、由紀さおりと我が心とのコラボレーションができて楽しい。近年の日本の音楽界にはなかった、完成度の高い秀逸なアルバムである。ご一聴下さい。
人のセックスを笑うな [DVD]
桐生市にある美大生の磯貝みるめ(松山ケンイチ)、みるめが愛欲に溺れる年上の女ユリ(永作博美)、そしてみるめにひそかに恋心をいだくえんちゃん(蒼井優)。一応は脚本があるようなのだが、3人のスーパーナチュラルな演技によって、本作品にはまるで即興演出作品のような雰囲気が漂っている。普通そういう演出をするとスクリーンから役者の緊張感が伝わってきて観ているこっちも疲れてしまうのだけれど、全編を通じて流れているほどよく肩の力の抜けたほんわかしたムードが心地よい。
リトグラフ制作の代行講師ユリ(39歳)がみるめ(19歳)を家に連れ込んで誘惑、年上女の色香の前にあっけなく陥落するウブな男。AVなどにありがちな山崎ナオコーラ原作のちょっと読み下世話なお話も、井口奈己の手にかかるとおされな恋愛ムービーに生まれ変わるから不思議だ。愛ルケのようなきわどい性描写などは当然カットされいて、みるめとユリが毛布にくるまってチュウをするぐらいのたわいもないシーンがあるだけなので、デート・ムービーとしてもおすすめできる。
松山はともかく、旦那(あがた森魚)がいながら若い男にちょっかいをだす開けっぴろげな人妻を怪演した永作と、それに負けじと片想いのおこちゃまギャルをナチュラルメイクした蒼井の演技合戦が見所だ。奥行や抜け感を強調した長回しが多少冗長で眠たくなってはしまったが、リアルな三角関係が微妙な緊張感を生んでいて、中味が空っぽな脱力系コメディとはひと味違うサジ加減がなかなかよろしい1本だ。
クイック・ジャパン90
転機となったのは、爆笑問題・田中の登場だったと思う。
それまで、知る人ぞ知るとか、誰も知らないという人選が『QuickJapan』の表紙の特長だったと思う。
しかし、上記の田中登場以降サブカル寄りとはいいつつも比較的メジャーな、表紙買いをさせるような人選になっていって、最近は「ウンナン」「銀魂」など知らない人の方が少数な表紙になっていた。
今号は久々に、「誰?」という表紙だった。
なので、昔の(vol20以前の)号を読んだ時のような興味深さを覚えながら読めた。
「神聖かまってちゃん」が本当に国民的バンドになるのか、それとも時代の徒花なのか、今後は見守って行きたいと思った。
小島慶子インタビューは大変興味深かった。
AMラジオの今現在エース級番組『キラキラ』の今後に、その動向に直結する小島慶子の退職騒動。
心配していた人の多くにとって、安心を得られるインタビューになっているのではないか。
特に小島のAMラジオ復帰を喜び、評価していた伊集院光が感激するような発言もあったと思う。
あとはいつも通り、細かいコラムは全て興味深かった。
他のインタビューも吉田豪のサブカル対談、ゲスト鈴木慶一も良かったし、羽海野チカの『3月のライオン』のインタビューも良かった。
今号は表紙に訴求力がないかもしれないけれど、内容は充実しているので、是非とも読んでもらいたい。
人のセックスを笑うな (河出文庫)
立ち読みで全部読めるくらいすらすら読めます。
印象としては、主人公の日記をのぞき見た感じ。
こういう日常もあるんだな、と思わせる若干のリアリティと
弱すぎず、強すぎもしない主人公の感情表現が
読後のすっきりとした印象を持たせているのではないでしょうか。
嫌いではありませんが、私はもっと胸をゆさぶられる
感情の強い作品が好きなので、立ち読みで十分でした。
カフェで流れるような、淡々とした音楽が好きな人には良いのでは?
この世は二人組ではできあがらない
帯に「無冠の帝王」とあるのは、今まで芥川賞に3回ノミネートされたからでしょうか。
主人公は1978年生まれの女の子。小説家志望で、大学を出たあとに専門学校に通ったり、生活のためにアルバイトや事務の仕事をしたりしながら、小説を書いて賞に応募しています。
これは私の勝手な想像なのですが、おそらく主人公の境遇は、山崎ナオコーラさんご自身のかつての境遇に近いのではないかと思います。そのためか、主人公の内面描写は非常にリアルです。
同い年の恋人との関係や、仕事のこと、家族との関係、将来への不安などで悩みつつも、徐々に自分の立ち位置を見つけて強くなっていく。若い女性の成長小説と言っても良いと思います。
文章は、一つ一つのセンテンスが短く、小気味よいです。また、20代、30代の若い女性の純粋さが新鮮で好ましく感じられます。
ちょっと残念なのは、ストーリー展開が「淡々と」していることです。恋人との関係が一番の主題だと思いますが、その恋人と別れる場面も、あまり大きな盛り上がりもなく、あっさりとしています。誰かの日記を「飛ばし飛ばし」読んでいるような感じです。感情を押し殺しているような印象を持ちました。
読後感は悪くないのですが、少し時間が経ったら内容を思い出せなくなりそうな予感もしています。後に残るタイプの本ではなく、手軽に楽しめる本だと思います。