深川の喜兵衛店の雇われ大家徳兵衛を主人公とした、
長屋ゆかりの人たちの小さなドラマたち6編。
もちろん猫がらみが底辺にあるのだけれども、それはあまり大きな
テーマとは感じられず中身はいつもの宇江佐さん。
でも猫を入れても破綻せず不自然さもなく、ほっこりさせてくれる佳作だと思います。
挿画の柴田ゆうさんの絵の雰囲気とあいまって優しい感じなんですが、
タイトルがなんだかこっぱずかしいので損している感じ。
柴田さんは米村圭伍氏の本でもいい感じの絵があっていいですね。
やはり時代物はいい挿画がないと!
伊三次とお文の恋物語で始まったシリーズも、10巻目に入って主役は次の世代に。やっと伴侶を見つけた不破龍之進はきいと祝言を挙げ、二人の新たな生活が描かれますが、龍之進もはや30歳近く。自然と伊三次とお文の長男・伊与太と、龍之進の妹の茜の若い世代の登場が多くなります。伊三次とお文の二人も中年夫婦の落ち着きを見せ、若い伊与太の将来を案じる様子は完全に父と母の顔。
活躍は次の世代に移るも、伊三次を取り巻く人々の、人情味溢れる様子に心が温まります。捕物話もありますが、捕物帖としての面白さより人情ものとしての味わい深さが際立つ一冊です。
表題作他、五編の短編集です。
一作目、「藤太の帯」は、平将門の首を討ったとして名高い、俵藤太の百足退治の意匠が縫い取られた帯が、藤太に何らかのゆかりを持つ少女四人の間をめぐり、それぞれの生き方に少しずつ影響を与えてゆくという、少し不思議なストーリー。謎めいた古着屋が登場したりして、ドラマで見てみたい感じです。
しかし明るい印象が残るのは一作目のみ。あとの五作はなんとも切ない話ばかりです。 この人と、もし違う場所で出会っていたなら。あの時、自分の気持ちが違っていたなら。 あの時こう言っていれば。そして、あんな事さえ起こらなければ、今頃はー。 「堀留の家」は兄妹のように育った二人の、 「富子すきすき」はあの有名な事件で一家の主を失った家族の、 「おいらの姉さん」は一心に花魁に憧れ続けた置屋の下男の、 「面影ほろり」は幼い頃に体験したほろ苦くも懐かしい思い出を、 「びんしけん」は長く独り暮らしを続ける不器用な男の短い初恋を、 それぞれ、後悔しても戻らないと知りつつ、想わずにはいられない人々の姿が描かれています。
何かがもう少しだけ違っていれば、幸せになれたかも知れない人々。 失ってしまったものに寄せる愛惜の想いは、今も昔も少しも変わっていなくて、一作読み終える度ごとに、涙、涙の一冊でした。
材木商伊勢屋忠兵衛の女房が亡くなった。忠兵衛はこれを機にお文に言い寄るが、お文は
忠兵衛の誘いをはねつける。忠兵衛のお文に対する気持ちが変わったとき、お文の家は
炎上した。表題作「さらば深川」を含む5編を収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ3。
今回も起伏に富んだ読み応えのある話ばかりだった。増蔵の意外な過去が浮き彫りになる
「因果堀」では、男心女心をしみじみと読ませる。「ただ遠い空」では、祝言を間近に控えた
おみつと、おみつの代わりにお文の世話をすることになったおこなの様子を描いている。
どうしようもないけれど、心底憎めないおこなという女性をいきいきと描いているのが印象的だ。
「竹とんぼ、ひらりと飛べ」では、お文の素性が明らかに!お文のとった行動は、はたしてあれで
よかったのか?悔いはないのか?余韻が残る話だった。「護持院ヶ原」は、なんとも不思議な
雰囲気の話だった。このシリーズの話の中では異色とも言える。表題作の「さらば深川」では、
伊三次とお文の関係に変化が・・・。これからの展開が楽しみな話となっている。毎回毎回
登場人物たちに意外なことが起こる。本当に魅力あるシリーズだと思う。
他の方も書いてましたが、この登場人物の設定が素晴らしい!
どれも人間臭くて、ほどよくいい面と悪い面があり、読むごとにスイスイと宇江佐さんの世界にハマっていきます。
私は文吉姐さんに肩入れして読んでしまいましたが、年齢や男女の別で、さまざまな登場人物に自分を重ね合わせて読むことができそうです。
標題にもなっている「幻の声」何が幻なのか・・・最後の最後で唸りました。ちょっとほろっときました。
ううむ、宇江佐真理、うまいなぁ!
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