大骨というか、めざす方向性は悪くないとして、ちょっと枝葉のほうに強引な論理の飛躍やら、データー的立証の不十分さが目立つ。 天皇家の資産形成で、明治期に最も大きな利益を生み出し、のちの活発な投資活動の原資となる資産を準備したのは帝室林野局の存在だった。徳川家はむろん、木曽檜、秋田杉など諸藩の林業林を、確実な収益源として皇室の所有に編入したことが、明治後期からのリスク投資を可能にしたものだったこと、また昭和1桁代には、皇室所有農地のほとんどを売却してしまい、天皇家が小作争議の標的にならないように処分していた事実も見逃している。 ついつい、戦後の常識でものごとを捉え克ちになるが、明治・大正期の日本では、まだ、金融業や製造業、植民地経営への出資は、リスクの高い投資と看做され、いちばん安全確実なのは不動産、なかんずく林業や農地への投資だったというのが真実で、たまたま、日本帝国の発展と共にリスク投資も成功したわけだが、はじめから予定調和的に大きな利益を見込める事業だったわけではなく、天皇家の側から見ると、いわば政府の施策への「お付合い」というのが適当(伊藤、山縣ら元老の政治資金の出処でもあった)なところだろう。 天皇家が、昭和という大衆化社会(普通選挙制の施行)の時代を迎えたとき、軍部はその「健兵主義」により兵力の源泉たる小農民や小作農の存在を重視する一君万民型イデオロギーで軍ファシズム運動に天皇家を取込もうとしたわけだし、ブルジョア政党や財界は、逆に「君臨すれども統治せず」の純経済的に天皇家の存在を絞ることで政治の埒外に祭り上げようとした。 しかし、西園寺、近衛、木戸らの宮廷勢力には、公家的な自己保存本能があるだけで、そのあいだを定見なく右往左往していたというのが実際で、旧宮内省などが、連合軍が思い込んだような意味で、財閥的に強い主体性をもって日本の政治、とくに侵略戦争や植民地支配を積極的にリードしようとしたわけではないというあたりが歴史的に見て妥当なところではないかと思う。 もちろん、当時の日本の国民経済規模からみて、総生産の5分の1にもあたる「大きすぎた天皇家の経済力」が、各界各勢力角逐の標的になったことは否定できないが、本書では、いささか単純化されすぎて舌足らずの嫌いなきにしもあらずとする。 そのへん、本書の論理は、いわば骨格標本であるにすぎず、さらに肉を付け血を通わせる論証が必要といえるのではないかと思う。
「ぬえ的」課徴金と刑事罰の併用という現行の制裁・措置の「構造上の歪み」を指摘し、ケースを具体的に引きながら、現職検事ならではの実務に裏打ちされた説得力ある論述を行っている。過去のケースレビューだけでも知的好奇心をくすぐり、興味深いものであるが、加えて、独禁法の起源にまで遡り、一般的な司法機関から切り離し、独禁法専門の特別の司法機関に法執行を行わせることを企図した「サルウィン構想」にも注意を払うとともに、米反トラスト法に関してWileyが指摘したのと同様、底流にある経済理論・経済政策の認識の推移にまで目を配った良書である。現在行われている独禁法改正論議を評価するうえでも、非常に役立つ視角を提供するものと思われる。
過去の財閥を俯瞰することで現在の企業のルーツを探ることを趣旨とする著書です。
三菱、住友、三井など名前は聞いたことがありましたがどういった経緯で現在に至っているのか知ることができました。
各々の財閥が世界大戦や反動恐慌、財閥解体、ワシントン条約などを経て興亡していく様はドラマティックなものだと感じました。
企業が力を持つために、資本の力や、先見の明、他を凌ぐ技術力、そして人脈がいかに重要であるかを再認識しました。
ただ、企業名や人名が立て続けに出てくるので、ほとんど知識のない状態から読み始めると、ところどころ消化不良になるかと思います。
もう少し財閥の数を絞って、噛み砕いて説明して欲しかったように思います。
ビジネスのグローバル化が叫ばれる現在、アメリカの独占禁止法を知らないと痛い目にあいます。 しかしその概説書はないという現状の中ではかなり質が高いと思います。著者の持論である「法律条文では独禁法はわからない。ケーススタディをとことんやるしかない」という信念が貫かれていて、明快です。 しかし大陸法的な法学を学んだ人には抵抗があるかも。
筆者はこの本のあとがきで、『韓国経済の専門ではない方々に、韓国の経済、韓国の財閥において現在起こっていることをお伝えするため』に、『わかりやすさをモットーとし』て、『新聞報道と専門書の中間のような存在を目指し』たと書いているが、その意図は十分果たせていると思う。本書を読めば、韓国の財閥の沿革と盛衰、そして彼らを取り巻く環境の変化についての基礎知識は得られる。 ただ、いかんせん新聞や雑誌の特集記事より少し詳しめという程度なので、記述内容の「なまもの」度が高く、2001年8月の初版出版から3年も経つとすでに鮮度が落ちて、コンテンポラリーな情報とは言えないものも多い。韓国経済についてある程度の知識のある方や、韓国に限らず「財閥」という企業形態の功罪などに関心のある方には、食い足りないと感じられるだろう。個人的には、例えば日本の財閥解体の経験との比較や、他の発展途上国での経済力集中の問題との比較、コングロマリットや同族支配の企業におけるコーポレートガバナンスに関する議論なども視野に入れた論考があれば、より面白い本になったのではないかと思う。
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