室町幕府初代将軍・足利尊氏の生涯を、歴史の表舞台にのしあがる決断の時から死に至るまで描いた作品。 足利尊氏というと、皇国史観では逆賊・悪臣の筆頭にまつりあげられ、その事蹟からも周到な戦略家・政治家の印象が強いのですが、本作ではそういった人の上に立つ者の冷徹さは稀薄で、家族を愛し、家庭を大事にし、人との強い関わりを絶やさないマイホームパパという雰囲気が濃厚です。 そのせいか、そんな尊氏を影で支え続けた弟・足利直義に意外や多くの筆が割かれ、大変魅力的に描かれています。 やや呑気にもみえる兄・尊氏を、全面的にバックアップするしっかり者の弟・直義‥‥実にクールながらさりげに熱く、数々の史実や逸話をもとにその人間的な温かみがしっかり書き込まれているところが??いです。微笑を湛えながら時に鋭く、時に優しく接する直義は凛と美しく、武士として、父として、ひとりの男としての毅然とした姿勢がぐっと伝わってきて、じんときます。 もちろん、南北朝の複雑な時代背景も、ありがちなつらつらの説明調ではなく非常に簡潔かつ平易に語られているためわかりやすく、さらっと読んでイッパツ理解OK。 足利尊氏の生涯に深く関わる脇役ひとりひとりを丁寧に描くことで個性を際立たせ、誰が何を考えてそこにいるのか、すっきりと表現されているので、南北朝の揺れ動く陣容が場面ごとにちゃんと把握できて、この時代に馴染みの薄い読者にも優しい作品に仕上がっています。
1972年生まれの自分にとっては、「徳川家康」「独眼龍政宗」と並ぶ、「本格派」大河ドラマの最高峰に位置する名作。
近年、題材のマイナー化や、妙な現代流平和ボケ価値観を当てはめた似非歴史劇が増える中、正に「王道」を行く大作である。足利高氏演じる主演真田広之の演技は「見事!」の一言。もう一人の主役とも言うべき武田鉄矢演じる楠木正成の存在感、重みがまた素晴らしい。
(史実においても彼は、敵方足利視点の梅松論においてさえ智勇兼備の名将と絶賛されており、皇国史観のフィルターを除外しても尚、日本史有数の戦略家、戦術家、そして自らの理想に殉じた、魅力あふれる人物である)
後醍醐天皇、足利直義、高師直、佐々木道誉、北条高時...何れもが実力派俳優による絶大な存在感を放っており、また妙な平和ボケ勘違いや、似非ヒューマニズムを一切持ち込まない王道的な脚本も素晴らしく、悲しいことだが、もはやこのような歴史ドラマは二度と現れないであろうと思われる。
この太平記の後、大河ドラマは、演出や解釈の妙な現代化や、題材・視点のマイナー化が進み、英雄・覇者を描いた王道本格派は本作が最後といっても過言ではない。完全版の発売を十年待ち続けた。
ただ一言、至高の名作である。
弓削道鏡・足利尊氏・田沼意次を「日本史の三大悪人」とする歴史観は、さすがに過去の遺物(で、ほぼその評価は今や逆転していると言ってよい)であろう。にもかかわらず、過去に押された負の烙印の大きさのためかドラマの主人公にもなれずトータルな人物像がいま一つ知られていない足利尊氏。その論理や行動を近年の歴史学の成果を踏まえ、尊氏本人のみならず後醍醐帝や楠木正成からの視点も交えて浮き彫りにした、貴重かつ優れた番組である。惜しむらくはゲストのコメントにややシャープさが欠けていることだが、それを差し引いても双手を挙げてお薦めしたい。
学校では習ったことのない知識、ヘェ〜という事が書いてあります。かなり前に出版されたものですが、今読んでも何の違和感はありません。歴史に興味のある方はぜひ読んでみてください。絶対、損はありません。
華やかな主権者(天皇、貴族、将軍)だけでなく、世の中を支えている民衆に目を向け、
かつ、「歴史に学ぶ」という筆者の姿勢にたいへん好感が持てます。
本書は、歴史の些末な部分にはさほどこだわらず、大きな流れをとらえることに重点が
置かれています。
大化の改新では、中大兄皇子と中臣鎌足が、強大な力を持つようになった蘇我氏から
主権を奪いました。やがて、中臣鎌足の子孫である藤原氏が権力を握り貴族による政治が
始まりました。次に権力を握ったのは武士である平清盛でしたが、彼も貴族化していきま
した。そして建武の新政。……という具合に、奪われた権力を朝廷(天皇)が奪い返す
ということを繰り返しています。たいへんわかりやすい図式です。
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