この映画に山本薩夫監督が軍隊に持った恨みをはらすような気迫を感じた。くしくも使った兵舎はかつて入隊した連隊があったところだという。出演者も軍隊の体験があって動作もさまになっている。
DVDには付録に山田洋次監督のコメントが付いている。監督はこの映画にエキストラとして出演している。裏話も聞けてなかなか興味津々の内容であることも付記しておく。
歎異抄の現代語訳付きの本は色々出ているが、ざっとアマゾンで見たところ、この講談社学術文庫のものが良く売れているようである。
梅原氏の解説と合わせて、歎異抄の世界に浸れるからであろうことがレビューからも良く分かる。
しかし、私は歎異抄を現代語訳で読みたいというだけならば角川ソフォイア文庫の方が良いと主張したい。
正直な所、歎異抄は鎌倉期の仏教に関する著作であり、いくら現代語訳しても、分からない部分が出てくるのは仕方が無いと思う。
しかし、古典を現代語訳する上でに、注釈に止めるか、解説してしまうかは大きな分岐点になる。現代語訳自体が一種の解釈と言えなくもないが、解説とは文字通り、著者の解釈そのものである。
初めて歎異抄に触れようとする人に初めから解説までつけた訳本を渡してしまうと、分かった気になるが、その実、単に解説者の解釈を本来の意味と取り違えているだけというパターンをまま引き起こす。
特に梅原氏は仏教思想に昔から傾倒しているためか、幾分贔屓の引き倒しのような所があり、これを歎異抄の理解だとあまり公言されると、浄土真宗の方々自体も閉口されてしまうのではなかろうか。
歎異抄は、決して親鸞の教えの要約ではない。親鸞の教えは教行信証などで示されており、それと比べると、齟齬がでるような部分も少ないのが実情だ。それでも、教行信証を読むよりは短くて読みやすいという理由で歎異抄を読むというのは分かる。
だから、読むのであれば、せめて元の文章に誠実に向き合ってほしい。原文とは言わなくても、現代語訳と注釈までで十分だと思う。解説は解説本でやれば良い話で、本文に解説を付けるのは行き過ぎである。
少なくとも浄土真宗では歎異抄について補足的な資料としてみなしていて、教えの中心をなす資料とは見ていない。
それを承知の上でこの本を読まれる方には、解説とは中身を分かり易くしてくれる説明ではなく、訳者の解釈に過ぎないことを忘れないでほしい。
上記の注意点を加味して★3つとする。
野間宏の文章の魅力は、読んでいる者の脳髄に、まさに「ぺたぺた」と貼りついてくる独自の粘着性にある。一見すると悪文だが、この文体でしか表現しきれないものは多く、それはこの野間宏の代表作を集めたこの本のどのページを開いてみても画然と思い知らされるであろう。粘着派は、野間宏の名を深く胸中に刻印せねばなるまい。
|