ヴォヤージュ
オシャレでこだわり屋さんの友だちに勧められて購入。
素晴らしい作品です。瑞々しく、たおやかで、柔らかい。
早春の空気と薫る風のような、躍動する音とアン・サリーの優しく透明感のあるボーカル。開放感に誘われて窓を開けて、清々しい空気を胸いっぱいに吸い込みたくなります。
一曲一曲を慈しむように歌い上げる彼女の歌声に身を委ねることの幸福感は、なんとも言えません。
ただのオシャレカフェ系の音楽は沢山ありますが、これは別格。
お気に入りのリネンのように、いつまでも一緒にいたくなる。
そんな作品です。
ナッシュビル [DVD]
最初から値段が安いという心意気を買う。一部映画マニアにだけでなく、広く売れてより多くの映画ファンが本作の偉容に触れられることを期待する。
アルトマンは「マッシュ」は日本でも大ヒットした(リバイバル公開までされている)のに、本作あたりからヒットしない呪われた監督のイメージがつきだす(その後の「カリフォルニア・スプリット」「クインテット」「ヘルス」等々の作品はことごとく日本劇場未公開に終わる)。
本作などは絶対受けないと当初から思われていたのか、ロードショーは東京地区スバル座1館のみというトホホの扱い。小子は遥か立川の2番館(封切と同じぐらいの料金だが2本立て興行。もう一本は何だったか本作があまりに面白すぎて忘れた)にまで追いかけて最終回上映で見た(夜遅く中学生(いや高1だったか?)が立川から帰路2時間かけて帰るのには、かなり勇気が必要だったが)。
上映時間2時間40分、カラー・スコープサイズ。ロードショー公開時は見ていないから何も言えないのだが、2番館ではモノラル音声上映だった。しかし北米版DVDは5・1チャンネル音声で、音楽シーンを中心に音はしっかりサラウンドする。当初よりミュージカル映画を狙っていたのだから当然の仕様だろう。
本作は録音にはマルチトラックの特別の機材が使われたとされており、複数の登場人物たちが同時にいろいろなことを話す驚異的な同時録音撮影が行われている(その後のアルトマン映画の特徴にもなる)。したがって日本語字幕からでは完全には登場人物たちが何を言っているのかを理解することが不可能である。
本作の魅力はすでにマニアの方々のレビューに詳しいので敢えて繰り返さないが、多少は個人的感想を付け加えておこう。「ギャンブラー」で西部劇、「ボウイ&キーチ」でフィルム・ノアール(ギャング映画)、「ロング・グッドバイ」でハードボイルド(探偵映画)というハリウッドの王道ジャンルの脱構築を試みたアルトマンが次に選んだのが音楽映画(ミュージカル)だった。
それぞれの歌曲場面には、それを歌う登場人物やその人物と関わった周囲の人たちなどが織りなす心象風景が巧妙に照らし出されるような仕掛けがなされていて、通常のドラマでは描き得なかった重層的で複雑な人間感情の綾の描出までもが成功していた。ここが旧来のハリウッド・ミュージカル映画と全く異なっていた点だった。その歌曲の良さはアカデミー歌曲賞を受賞したキース・キャラダイン歌う「アイム・イージー」を始め、一聴して万人を聞き惚れさせるに足る名曲ばかり。もちろん小子はサントラ盤LP(国内盤)を公開当時購入、すり切れるほど聞いたのも今は昔である。
本作の成功でハリウッドでは一時、カントリーものがミニ・ブームとなった。「ロッキー」のジョン・G・アヴィルドセンもバート・レイノルズを主演に「W・W&デキシーダンス・キングス」という佳作を撮っている(同作もお蔵入りの挙句、日本では漸く、今はなき「自由が丘武蔵野館」での特別上映が行われた際に小子は見ることができた)。
独裁者 [VHS]
この映画が作られたのは、ナチスドイツが全盛期であった1930年代後半である。
にも関わらず、チャップリンはヒトラーそっくりのメークをして、狂った独裁者が世界の征服をもくろむ姿を描いた。
ナチスのスパイに殺されても不思議でないのに、映画人として、自由の大切さを訴えた。
ラストの、ヒトラーが、地球の形をした風船をくるくる回すシーンが印象的である。
サーカス/一日の行楽 [VHS]
チャップリンに詳しくはないのですが、いわゆる有名作品よりも断然この作品が単純でバカバカしくて好きです。
特にテーマらしいテーマはなく、とにかくドタバタと次から次へ話と笑いが展開していきます。
サーカスのシーンはとにかく「ロバ」につきるのではないでしょうか。
最後に切ないシーンもありますが、やはりこの作品は頭をカラッポにして楽しむためのものでしょう。
ネットで見ると金も時間もかけた凝った映画ということでしたが、そんなところを見せないのも超一流の証なんでしょうね。
日の名残り コレクターズ・エディション [DVD]
派手で劇的なエピソードとは無縁。
その逆に「人に仕える」ということを生業とした執事の人生。
アンソニー・ホプキンスのためにあるようなこの役を、実に見事に、期待通りに・・・否、それ以上に演じるアンソニー・ホプキンスの演技に感服しました。
それを支えるエマ・ワトソンも最高。
名優とは、まさにこの人達の事を言うのだろうと、見終わってしみじみと感じさせられました。
読書するホプキンス演じる主人公にエマ・ワトソンが「何を読んでいらっしゃるの?」と無邪気に近づき、主人公がそれを拒むシーンは圧巻。
無表情な顔をして、胸の高まりが聞こえてきそうなアンソニー・ホプキンスの演技。
観ているこちらが胸がときめいてしまう。
あんなに静かで、だけど狂おしい「ラブ・シーン」を、私は他に知りません。
烈しく胸がときめく若い恋もステキだけど、
「一日で一番美しい時間ですわ」と、夕暮れの空を二人で見つめる、その二人の姿の美しさには、ただただ涙が流れるだけでした。
こんな人生もあるのだと。
共に生きる事はなくても、別の人生をそれぞれ歩きながら、思い合う恋もあるのだと。
屋敷からほとんど出た事のない主人公が
「世界の方から(この屋敷を)訪ねて参りました」と自分のご主人様に言う場面は印象的。
そうなのだ。
どこに行ったとか、どれだけ遠くに行ったとかは関係ない。
「井戸の中の蛙大海を知らず」ということわざには、続きがあるのをご存知だろうか?
「井戸の中の蛙大海を知らず されど 空の深さを知る」。
「空の深さ」を
「時の深さ」を
「人の深さ」を
知った主人公が教えてくれる、美しい物語。