Weather
鳥のように自由という意味のスワヒリ語「Ndegelcello」を名に冠する才女、ミシェル・ンデゲオチェロは強靭なファンク・ロックからキャリ
アをスタートさせ、以降作品毎にR&B、フォーク、ダヴ、ジャズ…と正に自身の名の如く広大な音楽航路を自由に横断してきた。
新作を出す毎にどんな新しい扉を開くか予測できない面白さのある人だが、9作目となる本作のプロデューサーにはなんとジョー・ヘン
リーを迎えている。しかしヘンリーは、彼女が初期の快活なファンク路線から一転、静の魅力を打ち出した99年の名作「Bitter」の制作
に関わっており、彼女のキャリアを初期から追っているファンなら特段驚かないのではないか。
本作では前作「Devil's Halo」でバックバンドを務めた布陣が引き続きサポートし、「Bitter」とは異なる演奏構成ながらも全体から醸し出
される静謐な雰囲気は「Bitter」と共通したものを感じさせる。
歌い手としてだけでなく凄腕ベーシストの肩書きも持つ彼女だが、本作で彼女自らベースを弾いているのは2曲のみ、他は歌い手として
ほぼ集中している処が今までの作品とは異なる。彼女の声は決して声量のあるものではないが、心の奥底へ訴えるようなぼそぼそとし
た呟きとクールな表情の語りを織り交ぜた歌唱は独特の魅力を放つ。本作でも語りと歌の境界が曖昧になった様に両者を実にスムース
に往来、その表現力にさらに磨きをかけた様が伝わってくる。
音としてはヘンリーらしく、フォークとブルースが交差したようなアコースティック主体の土臭い音創りで、ドラム・ピアノ・ギターを軸とした
バンド隊に時折チェロや浮遊感あるキーボードを織り交ぜ、全体の音数は少なめながら各々の音が気持ちよく響く贅沢な音空間は、彼
女の密やかな声から生まれる繊細な表情を壊さぬよう緻密に練られ、優秀な録音技術の成果も相まって実に耳触りが良い。
穏やかなギターと同化した彼女の呟くという簡素な形で始まり、そこへ控えめに色を添えるピアノ、深みあるチェロの音色が徐々に加わ
ることで得られる静かな美しさに言葉を失う「Feeling for the Wall」は、本作のベスト・トラックだと思う。
割とストイックな響きを持つオリジナル曲に混ざり良いアクセントになっているのが、2曲のカヴァーだ。レナード・コーエンの「Chelsea Ho
tel」と、ソウル・チルドレンの「Don't Take My Kindness for Weakness」だが、特に後者では普段より高音域をなぞる彼女の歌が甘い官
能を漂わせぞくっとさせられる瞬間がある。
静謐ながらもその中に確かな音と感情のうねりが感じられる傑作。これはこれで素晴らしい作品だが、ここの処穏やかな作品が続く彼女、
次作辺り初期作品の様なベースを弾きまくる攻めの音が久々に聴きたいと思うのは自分だけであろうか。
ア・デイ・イン・ザ・ライフ
2ndアルバム。
前作のファンクアルバムとガラリと違うアルバム。
プロデューサーに元ア・トライブ・コールド・クエストのアリ(ディアンジェロのブラウンシュガー"プロデュース)が参加している。聴き込むにつれ,良さが見えてくる悪くないアルバムである。
何れもメロディアスな軽めの曲(9にいたってはラテン系)で驚かされるが,トライブを解散し,ソロのプロデューサーとして活躍していく彼が新たな方向性を示していると思う。エリックは伸び伸び歌っており,いい感じ。
また,古い付き合いのジョージ・ナッシュとの(3), (10), (11)は前作を踏襲した実に良いスローであり,最も彼にあっている。ジェームス・ポイサー手掛ける(6)はジャジーで良い感じ出し,(13)だってギターの印象的な佳作。ブライアン・モーガンの(8)も,いい感じ。
サムシング・フォー・ザ・ピープルの手掛けたトラックだが,フェイス・エバンスをフィーチャーした(2)はポップでキャッチーな曲で,興味がある。
エロエロには程遠いが『使える』アルバムである。