はやく名探偵になりたい
『烏賊川市シリーズ』の6作目.既発の五つの短編が収録されており書き下ろしはありません.
著者の作品の大きな魅力と言えば,あらゆるところに織り込まれた伏線とその回収ですが,
短編ゆえにそのあたりが抑え気味で,編によっては早々に見抜けてしまうのが物足りません.
またこれも短編だからでしょう,シリーズの準レギュラとも呼べる人たちの登場がなく,
彼らとのコミカルなやり取りなど,ウリであるはずのユーモア要素が少ないのも残念です.
あと『謎解きはディナーのあとで』でも感じましたが,いささかマンネリ化している印象で,
特に被害者は『謎解きは〜』と同様の同じタイプが多く,既視感というか新鮮さに乏しいです.
中にはさすがと思わせられたり,短編ならではとも言える趣向を凝らした編もありましたが,
全体的にあっさりとしていて,シリーズ初の短編集が却って持ち味を薄めてしまったようです.
パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)
以前から妙に気になっていた東野作品の1つが本書だった。興味関心を惹くのは、タイトルの「パラレルワールド」という表現だろう。東野圭吾が描き出すラブストーリーが巷に溢れた並みの内容であるはずはない。事実、本書を読み終えて私はそう感じた。彼の作品は導入部分が素晴らしいとあらためて実感している。「序章」の分量は短いが、読者を彼の世界観(彼がこれから展開するストーリー)に引き入れるには十分な内容であった。要するに、最初の数頁で本書の価値は決まったわけだ。
「記憶」が本書の重要なキーワードの1つ。前後に揺さぶる作風は見事だが、「読みずらい」と感じる読者もいるに違いない。むろんそれは、ありふれた恋愛作品を超えたものを執筆したいという作者の信念に起因するものだが、現実と記憶のなかで揺れ動く人間心理のダイナミズムを克明に描いており、今読んでいる内容が「真実」なのか「虚構」なのか、混乱してしまう可能性があるからでもある。私自身、読み返した箇所が何度かあった。とはいえ、「友情」と「恋」(親友の恋人を愛してしまうという設定)の狭間で揺れ動く主人公の心理的葛藤は、十分に伝わる。自分をその主人公に置き換えて読んでしまう。簡単に「よくある男と女の三角関係の話か」と思うことなかれ。そこには上述された「記憶」をめぐる専門的知識を駆使した内容が加味されている。
総じて、本書が一味も二味も違う作風になっているのは、友情と恋を描き出した物語の基盤には、「高度な専門知識」に裏付けられた作者の世界観があるからである。本当に東野氏はよく勉強している。それを小説に組み込んで卓抜の作品を作り上げている。一気に読み終えてしまうような作品は少ないが、本書はその1つとなった。「帯」には「今ではもう書けない」とあるが、それは本書がそれだけの価値を秘めた作品であることを著者自身が明確に認めている証左であろう。神秘的なラブストーリーだ。
ガリレオ DVD-BOX
東野圭吾の原作に忠実で、ガリレオのイメージもすごく良かった。しかし、最終話はダメ。2つの短編をつなぎ合わせて、オリジナルストーリーに仕上げたが、あんな恩師の下でガリレオが働くとは思いません。やはり小説通りに、恩師の話は「ガリレオφ」にすべきだった。それが残念でなりません。それに最後の爆弾は非科学的すぎて科学物としては失格。せっかくのリアリティがパー!東野原作の緻密さを壊した最終話が原作に忠実だったら、申し分なかったのに!!!
流星の絆 DVD-BOX
東野圭吾の原作、クドカンの脚本、三浦友和、錦戸亮、要潤などの共演陣の存在感のある演技が脇を固め、そこそこのヒット作になるお膳立ては整っていたことでしょう。でも、この作品が2008年の日本のテレビドラマとして最高峰の評価を国内外から得る秀作となったのは、やはり二宮和也の独特な感性から溢れ出る細かい技あってのことだったと思います。
「怨むだけ」「悲しいだけ」「リアリティー感だけ」「笑いだけ」を表現するなら他の役者でもできるし視聴者にもストレートに伝わります。でもニノは、この主人公役を通じて幼い頃から『お兄ぃ』として気を張って弟妹を護りながら苦労してきた哀愁(生活臭すら感じます)を漂わせつつ、「遺族だって(それがアイデンティティの全てではなく)、普通に笑ったり夢を持ったりする生身の人間なんだよ!」という気骨ある心情を巧く表しています。
ともすればコアな視聴者にしかウケないリスキーな試みや遊び心満載のクドカンワールド、本作品ではニノの瞬時に笑わせ、泣かせ、あっ!と思わせる繊細な演技で作品の完成度がぐんと高まったと思います(実際にクドカン作品としては初めてリアルタイムで高視聴率をマーク)。他の役者が狙ってできるものではない、二宮和也という稀有な感性を持つ役者と、脚本や共演陣の魅力が絶妙な相乗効果を奏した優れたテレビドラマ作品です。
容疑者Xの献身 スタンダード・エディション [DVD]
タイトルに冠が付いていないが、ドラマ「ガリレオ」の続編としての映画となる。
テレビドラマの映画化はえてして2時間スペシャル番組程度の価値しかなく、
わざわざ映画館に観に行くほどのものでないことが多いが、
本作は非常に濃厚なシナリオと確かな演技力が光る魅力作だった。
大学で「ガリレオ」と呼ばれる准教授(福山雅治)が
女性刑事(柴咲コウ)の受け持つ事件の謎解きに
知恵を貸すというお馴染みの設定だが、
ドラマ版を観ていなくても問題なく楽しめるようになっている。
このドラマの主役はもちろんガリレオなのだが、
今作はとにかく「石神」という数学教師の存在が素晴らしい。
キャラクター設定や性格付け、その演技はとにかく素晴らしく、
まさにグイグイと引き込まれていく。
ミスリードや伏線もうまく、何度も展開が変化し、
しかもそれに無理がなく、説得力と深みを感じる。
怒涛のクライマックスはまさになんとも言えない後味で
とにかく見応えがあった。
タイトルに「ガリレオ」の単語を付けず、一本の作品として勝負したのも正解。
ドラマの映画化に眉をひそめる人にも強くオススメ。
冒頭に報道される事件だけは何の関係もないのが残念だった。
単にガリレオ登場の理由にしたいだけなら無意味に派手すぎる。