時代の風音 (朝日文芸文庫)
専門分野の異なる3名による対談のため、各人の得意ジャンルにおける深い作品性や重さを期待すると喰い足りない感じがするのは否めない。特に宮崎氏は畑の違いからか年輪の差か進行役的立場からかやや影が薄い。ただ、逆に分野の違いから導かれる切り口の面白さや溜飲の下がる部分も多く、広範な話題や発言の端々にそれぞれの社会観・歴史観のようなものも見え隠れする。3名の肯定的(共感的?)・かつ思い入れの強すぎない読者・視聴者向け。他の著作の間に一冊この本もあると番外編的に楽しめる。サクサク読めてしまうテンポは単純に歴史文化系放談風読み物として見てもいいような気もするが、やはりヨソとはサイズがひとつちがうスケールがどことなくにじむ。個人的には、司馬氏のエッセイ作品の読者層あたりがなじみやすい内容な気が。文庫で読む分には充分なコストパフォーマンスかと。
日本合唱曲全集「岬の墓」團伊玖磨作品集
数ある團伊玖磨の合唱曲のなかでも「岬の墓」は屈指の名曲である。
この曲の歌詞は、船出する美しい船を岬の白い墓が見守る、という単純かつ和やかなもので、
十分ほどの演奏ながら、曲調は非常に変化に富んでいる。
男声部のやや低めで印象的なハミングのメロディから始まり、
その後は「今、過去、未来」を順に見つめるように、明瞭に曲の雰囲気が変化していく。
現代日本の合唱曲にしては古典的なクラシックらしい曲の構造を持ち、
安定感と荘重さにおいては、おそらく他の合唱曲の追随を許さないであろう。
辻氏が指揮するクロスロード・アカデミー・コーアの演奏は、人数編成は多くも少なくもないものの、
表現の豊かさと演奏の一体感において、とても素晴らしいものを聴かせてくれる。
このCDにはほかにも定番曲の「河口」も入っており、申し分ない内容と言える。
定家明月記私抄 (ちくま学芸文庫)
平安時代に平家が滅亡し、頼朝が鎌倉幕府を開く時期に残された膨大な定家の明月記。漢文で書かれていたためにあまり読まれず、幻と言われていたのを著者が40年掛けて読み解き、当時の世相を生き生きと再現している。後白河法皇、後鳥羽院、兼実、慈円、西行、定家の父俊成、頼朝、実朝、法然、親鸞、様々な人が出てきて、様々な政治的、文化的、宗教的な事件がおこる。二流公家で、ままならぬ出世、同僚を殴って公家から除籍された話があり、定家は九条家の家司として雑役匹夫のごとく使われたと自嘲している。それでも奥さんが複数いて、定家は27人の子供をつくる。父俊成も27人の子供を残していたと言うので驚き、笑ってしまう。もちろん定家の職業歌人としての活動もしっかり書き込まれている。定家の明月記だけでなく、慈円の愚管抄、鎌倉幕府の吾妻鏡、兼実の日記、多くの書物を読み込んだ上での平安時代のルポルタージュになっている。読んでいて飽きない、ためになる話が満載の本である。
本を残すとき漢字かな混じり文で書くのと漢式和文で書くのと二種類あるが漢式和文で書けばあまり読まれない。あまり読まれない明月記を丹念に読んで、このような面白い本にしてくれた堀田善衛氏に感謝したい。
日本合唱曲全集 團伊玖磨作品集
「筑後川」も「海上の道」も邦人合唱曲の名曲ですが、残念ながら、最近では演奏される機会が少なくなりました。30年前にステージで歌った私にとっては、少し残念な気がしています。
どちらもとても骨太の曲で、丸山豊の詞も雄大です。歌い継がれてほしい合唱作品なのですが。
他の方の指摘の通り、確かに四半世紀前の録音ということを考えると、再録音の必要があると思います。「岬の墓」はもっと前の録音ですし。
ただ、現段階では、市販のCDは少ないので、多くのアマチュア合唱団にとって音源の確保という意味では必要なものですね。
何より、多くの人に愛され続けてきた合唱の名曲を若い世代の方に知っていただくためにも、これを是非聴いて欲しいと願っているのですが・・・・。