拙僧、世に生を受けてはや八十年 復員してまもなく十蘭の作品と出遭い、涙したあの頃を思い出す
十蘭と申されるこの方は正真正銘の美文家で さらに誰にも真似ることのできない自身独特の文章スタイルを持つ 唯一無二の作家である 今の十代二十代の人も是非触れて欲しいと願う
テーマや舞台にバリエーションが多いのも楽しいし、オリジナリティーのあるストーリーが魅力的だ。形容詞や表現に外国語が多くて、ちょっとスノッブな、ハイカラな感じがある。
「海豹島」では、閉ざされた世界を舞台に、疑心暗鬼と狂気のテンションが高まっていく感じが良い。最後の種明かしは江戸川乱歩や、時代に共通のエログロを感じる作品。
「墓地展望亭」はロマンチックな話だ。ちょっとルパン3世の「カリオストロの城」を彷彿とする、男子なら憧れるような夢物語。これを堂々と書ききるところが、逆に目新しかった。
「地底獣国」は古典的な空想科学小説だが、地底と古代生物の複合と言うところが一粒で二度美味しい。そこにさらに追走劇のエッセンスまで加わっている。設定や途中に出てくる風景や動物の描写がやけに詳細なのが嬉しい。
「ハムレット」、この作品集で一番の収穫と言ったら、迷わずこの作品だ。この設定は秀逸で感心してしまった。解説と共に提示される原型となった作品「刺客」と合わせて読めるのが嬉しい。
このシリーズ共通で、名前は知っていたが、なかなか作品は手に取ることができなかった作家である。読んでみて損はない。
この本で久生十蘭を知り、大ファンになりました。 堅くもなく柔らかくもない絶妙にかろやかな文体は、ずっと読み継がれていくべきものだと思います。
最近では十蘭関係の文庫が花盛りの様相を呈していますが、やはりこの本は素晴らしいです。 久生十蘭は幻想的なものからミステリー、江戸を舞台にした捕物帳までものすごく作風の幅のひろい作家ですが、この短編集にはなかでも幻想的で「この世」と「あの世」の境目に立っているような、繊細な作風の作品が収録されています。
十蘭をふたたび世の中に紹介するに当たりこれらの作品を厳選した岩波書店はさすが!、という感じです。
顎十郎は、コロンボよりもトボけていて、ルパンより強い。 トホン、とした顎十郎の推理が冴え渡る。この「顎十郎捕物帖」が何十話も読めるのだから、「日本探偵小説全集」の中でも屈指のお得感。
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