山路氏のバラエティ番組での発言をただなんとなく聞いているうちに、思いのほか悪い人ではないのではないかと思うようになった。 結果としてこの本を読んだことで、山路氏が嫌われない要因が分かったのと同時に、いやそれ以上に、彼が普段会話で使うテクニックは女性のみならず周りの人々に好感を抱かせることをなせるものだと感じた。そしてそれは決して凡人に真似できないというたぐいでないことも理解した。
森達也氏がTV局の自主規制や、報道ですら事実を捻じ曲げるような方向付けをして放送されている事について、何冊もの著書で語っているが、本書は、安全地帯にいて外国他社の映像をつなぎ合わせて番組作りをする日本の報道ではなく、紛争地域の現地に入り、その生の姿を届ける、報道としてのワールドスタンダードで取材を行う、日本では貴重な通信社APFと、その象徴でもあった故長井カメラマンについて書かれている。
また、ビルマではなくミャンマー表記することに対しての注釈もあり、良心的な良書だ。
米放送局が映す、攻撃者側からのプロパガンダ映像ではなく、ビルマの事件当時も安全なビルの屋上からでなく、自身を危険に晒してでも迫害される視点から兵士を捕らえ続けた長井氏の映像こそが、真に読者を含めた一般市民の戦場における姿であり,これが膾炙されることで、戦争の実情が理解され、平和を作り出す努力や、戦いを失くす働きかけが広がるのだが、日本では未だそれは基本とはなりえていない。
それどころか、世界的な反戦デモを日本で同時に行っても、朝日新聞ですらベタ記事扱いで、反戦を訴えることすらタブー視されつつある有様だ。
ビルマ軍は、報道をあえて狙って殺したとの内部文章も公開されたが、事件調査を今に至っても放置し続ける外務省は、こちらも黙殺を決め込み、長井氏殺害に対する憤りを形として表してはいない。
APF社のような通信社を大手が重用する機会が増えれば、世論も高まり、多大なODAでビルマ軍を支持する日本政府も動かざるをえず、それによってビルマの民主化が進んでこそ長井氏も喜ぶのではなかろうか。
本屋では入荷しないというので、アマゾンで頼んだ。本の薄さにビックリした。千円以上するのに。しかし、読み始めて気にならなくなった。ゴン太の話以外にも、置き去りにされたペット達、牛、豚。皆、生き物だ。感情だってある。なのに、置き去りにされ、どんな思いであっただろうか。ボランティアだけの力でも1/5ほどしか救出出来なく、ほかは突然の弱肉強食の世界になったり、餓死していったり。やるせない。皆待っているのだ、人間達が帰ってくるのを。今回の原因を作った東京電力の責任は、決して軽いものではないだろう。いつか償ってほしいものだ。
長井健司さんという希有なジャーナリストの軌跡だけではなく、様々な戦争(その他危険を伴う)取材に対する日本のメディアの姿勢も垣間みられて、面白く読めました。
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