長らく清水俊二訳に親しんできたミステリファンの視点で読んでも、この新訳の意義は大きい。
すべての翻訳は折にふれ見直され更新されるべきであり、存在として単なるジャンル小説の枠を超えてしまった本作が省略や誤訳の可能な限り少ないエディションで読み伝えられていくのは喜ばしいことだ。
それにしてもテリー・レノックスの堕天使の如き造形はやはり魅力的だ。この一点のみにおいてもチャンドラーの最高傑作だけならず、偉大なアメリカ文学の一冊たりえる資格を持つ。
訳者は最近のインタヴューでチャンドラーの長編はすべて翻訳するつもりと述べているが是非実現して欲しいものだ。
(しかしポケミスの清水訳や田中小実昌訳も絶版にはして欲しくない。これは早川書房への切なる注文)
名物に美味い物なしと言われるように名作に面白い物なし。最後まで如何に展開するのだろうとハラハラ,ドキドキ。巨大な組織に立ち向かう一探偵の無力さを感じさせられます。名作に接してみたいという人は一読すべし。
チャンドラー最長の作品にして最高傑作。フィリップ・マーロウとテリー・レノックスとの友情は、ミステリーの枠組みをあっさりを飛び越えて、読者の胸に迫ってくる。
こんなマーロウもありではないか?
猫派のマーロウが犬だらけの街を行く。
象徴がちりばめられ、アメリカ文学の短編を読んでいるようだ。
とぼけたチンピラどもも愛おしく、ラストなど松田優作の「探偵物語」に
影響を与えていると思える。
このころのアルトマンには遊びがあって、ほんとにカッコいいなあ・・・
恥ずかしながらこの本でチャンドラーを知った人間です。
この本を知らなかったのが「(本好きとして)恥ずかしい」と思える一作です。
まだよんだことのない人はこれが機会、読んでおきましょう。
読んだことがある人も、思い出すのを含めて悪くありません。あとがきの春樹解説読むと、春樹小説の理解がいっそう深まるかもしれません。
今私は清水さん訳の「高い窓」を読んでおります。全部読み終わるまでは当分マーロウ漬けの日々を送りそうです。
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