ケンプやマイラ・ヘスといった往年の巨匠、それに自身の編曲も含めたバッハの愛すべき旋律を集めた1枚。じっくり聴くもよし、BGMにもよしという手放せないディスクである。
アンジェラ・ヒューイットは現今最高のバッハ弾きだと思われるが、何よりも素晴らしいのは『ゴルトベルク変奏曲』だ。スケールはそれほど大きくないが、現代ピアノの機能を目一杯活かしながらの精妙なタッチは融通無碍といえる。第16変奏のピアニッシモの「感じ方」などヒューイットでしか聴けない。
たしかにグールドはいつ聴いても飽きない。これは別格としても、リフシッツ、チェンバロのスコット・ロスとこのヒューイット盤をベスト3としたい。
2002年2月に収録された、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)の《平均律クラヴィーア曲集》の2枚組DVDです。内容は… DVD-1 ●曲集 第1巻より〜: ○第1番 ハ長調、BWV.846〜第12番 ヘ短調、BWV.857(ピアノ:アンドレイ・ガヴリーロフ) ○第13番 嬰ヘ長調、BWV.858〜第24番 ロ短調、BWV.869(ピアノ:ジョアンナ・マグレガー) DVD-2 ●曲集 第2巻より〜: ○第1番 ハ長調、BWV.870〜第12番 ヘ短調、BWV.881(ピアノ:ニコライ・デミジェンコ) ○第13番 嬰ヘ長調、BWV.882〜第24番 ロ短調、BWV.893(ピアノ:アンジェラ・ヒューイット) です。客を入れてのコンサートではなく、無人のリサイタルです。1曲毎に舞台・照明・演奏者の服装が異なっているのが特徴で、その演出も見所です。ただ、個人的には、第2巻の8・10・21番などの演出が鼻につきます。 演奏そのものはどれも高水準で、映像もクリアです。聴いて楽しい、観て楽しいこのDVD。音楽を愛する全ての人にお薦めします。
十代のころ、バッハが苦手だった。バッハを聴くと無性に切なくなる。その切なさに耐えられなかった。 めぐり巡ってバッハ信奉者になったが、あのころの「切なさ」を取り戻すことはなかった。
アンジェラ・ヒューイットのバッハを聴いたとき、私は十代のころに感じた「切なさ」を感じていた。
アンジェラ・ヒューイットの演奏が正しいバッハ演奏なのか、いい演奏なのかどうか、私にはわからない。というよりも、私は音楽を聴くうえで、そういうことを問題にしてこなかった(だから、バッハの『フーガの技法』の弦楽四重奏版を愛聴している)。
私にとってアンジェラ・ヒューイットのバッハは、グレン・グールドのそれとともに一生モノとなった。
2007年9月11日リリース。アンジェラ・ヒューイットのhyperion最初の『旧約聖書』である。アンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt1958年7月26日 - )は、あのマルカンドレ・アムランと同じく、カナダ出身のピアニストである。1994年からハイペリオン・レーベルと契約し、現在までものすごい勢いでアルバムをリリースしている。トロント国際バッハ・ピアノ・コンクールにおいて優勝しているので、特に『バッハ』に対するこだわりは人一倍なのを感じる。
そして、ピアノがイタリア製ファツィオリ(FAZIOLI)である。このピアノは、アムランも『Godowsky;Original Works & Tran』で使用している。ピアノ好きな方はご存じだと思うが、ファツィオリは1981年創業のイタリアのピアノ・メーカーで世界で最も高額なピアノを創っていることで知られている。現在日本で確認できるピアノ台数はわずか6台。独立アリコート方式、「第4ペダル」など特殊な設計でも知られている会社だ。アムランはこのピアノをカナダのファツィオリ・インターナショナルから貸与された、と『Godowsky;Original Works & Tran』のライナーには書いてある。このピアノはアルド・チッコリーニが使用していることで知られているが、確かにここでのアムランの音色はチッコリーニと似ていた。
アンジェラ・ヒューイットは、ファツィオリを自宅の他、ツアーに運んで使用していて、この『平均律クラヴィーア曲集』全曲演奏ツアーでは、水入りのコップを6個、ピアノ脇に置いて演奏し、途中にその水を飲みながら進める独特の演奏スタイルとなっている。
私信ではバッハ弾きは絶対に性格が『陽性』であらねばならないと思っている。グレン・グールドがこの曲をハミングしながら弾くのを聴きなれた耳には、陽性のグルーヴ感のない平均律など聴く気にはならないというのが正直なところだ。その点、ヒューイットはジャケットを見てもらえば分かるが合格である。
ファツィオリの独特な優しい音が紡ぐ平均律は、いつまでもいつまでも浸っていたい暖かな波のようだ。すばらしいアルバムだと思う。
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