電車での一人旅の道すがら、気が向いたときにのんびりと本を読みたいという理由から、本屋で何の気なしに手にとった本がこの文庫であった。パラパラとページをめくったときに「汽車」「レール」などの文字が多く目つき、短編の童話集であるからぶつ切りで読むにはちょうどいいだろうと、特に深く考えることも無く買い求め、ジーンズの後ろのポケットに入れた。 私には、その旅行の印象が一つも残っていない。言うまでもない。この童話集に夢中になってしまい、旅行などどうでもよくなってしまったからだ。誤解を恐れずに言うなら、この童話集は現実よりもリアルだ。 それぞれの作品の中では、動物が言葉を操ることもある。さらには、風やレールといった生命を持たないものまでが会話をする。そのことだけを見れば、荒唐無稽で現実感のない話に映るかもしれない。しかし、にも関わらずリアルな物語として成り立つのは、著者の眼差しの深さによる。 著者は、全作三人称で物語を描き、その中に自身の感想は極力入れないようにして、淡々と時系列で物語を進めていく。ただただ、そこに在るものをそのまま言葉にしているといった趣である。私は、描かれた物語の脇に、その物語をじっと見続けている著者の眼差しを感じる。人を愛し、自然を愛した人の、穏やかな眼差しがそこに在る。著者の実感がすーっと私の心に流れ込んできて、とても暖かいもので満たされていく。 この童話は、今、この場所から少し離れて気分転換をしたいが、そんな時間はないという大人にこそ読んでもらいたい作品である。
自宅介護している病気の父親のために購入しました。
たくさんの話が入っていることと話し手さんの話し方が非常に聞きやすいので良いと思いました。
父親は、それなりの年齢のため、知らない話が多いかもしれませんが、基本的に童話ですので誰でも楽しめる内容だと思いました。
昭和の童話作家、小川未明の短編童話集。この中に収められている『野ばら』は教科書なんかにも載っている有名なはなしで、国境におのおのの国から配置された老兵士と、若い兵士の物語です。 どれも日本的なノスタルジーに溢れていて、心が温まり、それでいて時々人間の業の深さにはっとさせられるような批判的な内容まで幅広く、童話だからといって軽視は出来ない作品ばかりです。大人になってから読む童話もまた、一興でした。
静謐さを秘め、幻想的で奥ゆかしさを感じさせる絵のタッチと、物悲しく美しい怖さを孕んだストーリーにハラハラ・ドキドキさせられ、又切なさを想わせる。個人的意見の一つとして、余り感受性に富んだ人間ではなくとも詩的な気分にさせられてしまう魅惑の絵本だと思う。空虚感だとか、救い様のない「堕ちてゆく」感覚と言えばいいのか。拝読後に引きずられる余韻はそこいらの絵本の非ではない。
超人的な多作ゆえに全貌が未だ全集として解明されていない作家だけに、余り見切ったようなことを言うのは憚られるが、少なくとも本書に選ばれた作品の共通点としては、ハッピー・エンドどころか基本的には悲劇やカタストロフで終わる話ばかりなことが挙げられる。
これは、作家自身の以下のような趣向の表れと言えるだろう。
「夜と、死と、暗黒と、青白い月とを友として、そんな恐れ(=引用注、死への恐怖)を喜びにしたロマンチックの芸術を書きたいと思う。」(「夜の喜び」より、362頁)
どんでん返しやキャラ設定等に凝った作品が溢れた現代のホラー/サスペンス小説と較べると素朴な作品が多い点は否めないが、児童文学者らしい寓話感の溢れた奇譚集に纏まっているとは言える。ただ、作者のいう「ロマンチック」の部分が同時代の室生犀星等に較べると少し落ちる感があるので、星は三つに留めた。また、狂人や病人、貧しい人々等が主要キャラになっている点も各話の共通点として挙げられるが、この辺は逆に現代作品よりも残酷な味わいが深いようにも思う。
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