ハイドンのチェロ協奏曲は名曲だ。ハイドンらしい陽性の快活さが心のしこりをほぐしてくれる。
本作はロストロポーヴィッチの弾き振り。75年11月の録音だが、音質は悪くない。本作の特徴は現代的なこと。モダン楽器による演奏もさることながら、カデンツァは第1番はブリテン、第2番はロストロポーヴィッチ自身によるもの。この18世紀と20世紀のドッキングをどう捉えるかは人によって異なるだろうが、私は決して古典派の曲の流れを損なっておらず、こういうカデンツァ(特に第1番)もありと考える。
ロストロポーヴィッチがソ連を出国したのは74年。本作は演奏活動の自由を得たばかりのロストロポーヴィッチの喜びに満ち、エネルギッシュ。アカデミー室内管弦楽団の演奏ものびやかでふくよか。
もう録音から40年近い時間が経過したが、今なおハイドンのチェロ協奏曲の代表的名演の1つに数えていいだろう。
予想してた通りグールドの映像や演奏が少なかったです。 しかし、実は期待していなかっただけに、内容は予想を超えてなかなか良いものでした。 かなり興味深い内容が多く、リヒテルとも会っていた話やグールド自身が指揮をしている映像がほんのちょっとだけでしたがあって、楽しく見る事が出来ました。 そして、どうやらこの作品は、2003年第21回モントリオール国際芸術映画祭でグランプリを受賞しているようです。 それにしても若い頃のグールドは、見た目にもかなりかっこいいですね。
ソ連の名ヴァイオリニストであったオイストラフの協奏曲演奏のTV映像を収録したDVDです。収録年は1964年から1970年。計195分で全てモノクロです。テレビカメラで撮ったビデオ映像は映画フィルムに比べて劣化も早く進むため、画質は年代のわりに良くなく、音質も程度の差はありますが全般に今ひとつです。それでもオイストラフのソロは比較的よく入っていますから、彼の演奏を聴くには許容範囲といえます(伴奏はもやもやしたところが多いですが)。キャメラワークはぶっきらぼうなもので、話になりません。 曲目は、1ショスタコーヴィチの協奏曲第2番、2ヴィヴァルディの4つのVnのための協奏曲(作品3-10)、3ブラームス、4シベリウスの協奏曲、5ベートーヴェンのロマンス第1番、6チャイコフスキーの協奏曲、7ベートーヴェンの三重協奏曲。2は息子のイゴール、コーガン親子との共演、7はリヒテル、ロストロポーヴィチとの共演。伴奏は、17がコンドラシン指揮モスクワ・フィル、2がテリヤン指揮モスクワ室内o、3から6がロジェストヴェンスキー指揮、モスクワ放送so(345)とモスクワ・フィル(6)。 演奏としては、ショスタコーヴィチ、チャイコフスキーが熱演にして好演。ヴィヴァルディはよい雰囲気でした。そしてベートーヴェンの三重協奏曲、これはソ連の3人の巨人が顔をそろえた巨大な演奏です。曲自体は一般に言われるように弱いものですが、それでも最終楽章などはすごい迫力。歴史的な映像記録というべきでしょう。 なお、本DVD収録演奏のうち3から7は「オイストラフ・アルヒーフ」という2枚組のLDに収録されていたのと同じものです。これらについては、DVD化に伴う画質や音質の向上は感じられませんでした。上記のLDを所有している方にとっては、星2つ半くらいでしか推薦できません。
既に多くの人が決定盤の評価を下しているCDに敢えて異論を唱えるつもりもないので、演奏自体については触れないことにして、従来盤と今回のHQCDの音質の相違点だけを述べることにする。私が比較したのは98年のARTリマスター盤で、先ずこれまでのHQCDリニューアル盤に共通している点は、音量自体のボリュームがアップしていることだ。これはおそらく24bitリマスタリングした時の副産物と言えるだろう。ただ音量の違いだけならアンプのボリュームを上げれば、同じように再生されるかというと、幸いにもそうはならなかった。
どちらも69年の収録で、この頃のEMIの音質の弱点は特にベートーヴェンの方に出ているが、このCDではそれがある程度改善されている。以前はオーケストラのパートが3人のソリストに対して若干後退してひと連なりに聞こえていたが、全体的に響きが良くなり、各楽器間の音の独立性もより明瞭になっている。結果的にカラヤンが苦心したスケールの大きなオーケストレーションのバランスのテクニックが際立つことになった。一方ブラームスは同じ年の録音だが、会場による音響の違いからか前者よりオリジナル・マスターの出来が良く、あらはそれほど目立たないが高音、低音共に伸びが良くなっているようだ。ARTリマスター盤では小ぢんまりとまとまり過ぎていたように思える。
尚このCDは既にリイシューになり、2009年に初めてHQCD化された時には2600円だったが、私は翌年の秋に1200円で買った。大幅な低価格化は評価できるが、最初に購入した人にとっては、わずか一年余りで半額以下になると、納得がいかない部分もあるだろう。
ロストロポーヴィッチ氏のチェロ、しかもバッハの無伴奏チェロ組曲を聴くにあたって、随分と昔にNHKのBS放送を録画したものを引っぱり出して観てみた。
「ロストロポーヴィッチ バッハを弾く」というものである。
フランスはヴェズレーの聖マドレーヌ大聖堂で1992年に撮られたドキュメンタリー番組。(制作はSGOL Music Limited 1993)
その当時、当代のチェロの巨匠であるムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ氏が、齢60代にして初めてバッハの無伴奏チェロ組曲の全曲録音に挑むというもので、それに沿って撮られたドキュメンタリーである。6つある組曲のそれぞれの演奏があり、その前に曲の解説と演奏に臨んでの熱い想いを語っている。
ロストロポーヴィッチ氏はチェリストとしては勿論最高だと思うが、教職者としてもとても優れた方で、こういった楽曲の部分的な説明を聞いていても私などのように造詣の浅い人間でも引き込まれてしまう、何度見返しても本当に凄い方だと思う。
そこで演奏されているチェロ組曲そのものは、このレビュー対象のCDで演奏されているものとだいたい同じに思われるので、このCDに興味があって聴かれる方は是非とも観て頂きたいものである。
(調べてみたら、同じものがDVDであるみたいですよ)
ロストロポーヴィッチ氏は演奏するにあたって気を付けなくてはならないこととして、黄金の中庸をまず目指したと述べている。まずバッハの楽曲の特徴をスコアから真摯に感じ取り、その後で自分の演奏と照らし合わせて演奏の構想を練っていく。
それは楽曲解釈のイロハだよと言ってしまえばそれまでだが、運弓法も含めて、下手に楽曲解釈や演奏方法を動かしがたいのがバッハの音楽であると。
この方はかなり若い頃にコンクールで優勝し、かなり若い頃から音楽院で教職に就き若い学生に教えもし、若い頃から演奏旅行で色々な世界を見て回り、外の世界に目を向けて色々なチェリストと親交を結んだり教えを請いに行ったりしている。
そんな中にはかの有名な、パブロ・カザルスがいたり、グレゴール・ピアティゴルスキー、ピエール・フルニエ、ダニール・シャフラン、ヤノシュ・シュタルケル、ポール・トルトゥリエ、指導した側としてはジャクリーヌ・デュプレ、ミシャ・マイスキーらがいる。
(私の知っている名前を挙げました。他にももっとたくさんいらっしゃいます。「ロストロポーヴィッチ伝(エリザベス・ウィルソン著、音楽之友社)」をご覧あれ)
当然そんな親交の中には、チェロの演奏技法からバッハの楽曲解釈についての意見の交換もあろうし、音楽院で学生を指導するにあたっても後から色々な考察材料が出て来るものもあるだろう。
チェロ以外の音楽家や作曲家とも実に幅広く親交があり、それ以外にも他のジャンルの文化人であったり、政治家であったり様々な経済人とも付き合いが広い。彼は、内にこもって内省的に楽曲を追求していくのみの演奏家ではないことは確かだ。
私はロストロポーヴィッチ氏の楽曲解釈が一番のものであるとは思わないが、それでも最も注目すべきものであると思う。
先述のドキュメンタリー番組の演奏に話を戻して恐縮だが(見られない方には特に)、ロストロポーヴィッチ氏の演奏する姿を是非ご覧になって欲しい。
バッハの無伴奏チェロ組曲もかなり若年の時期からずっと弾きこなして来たし、学生達にも指導してきたものである。別段今になって急いでさらって弾くものでは決してない。
そこで、見て欲しい。
高名な、既に名を成したチェリストが余裕を持って勝手知ったる曲で自在に運弓するのとはほど遠い、左手の運指を用心深くチラチラと見やりながら、とてつもない難曲と全身で格闘しているといった風情なのである。
顔なんか、どちらかと言うと嫌そうな顔である。(失礼ながら)
だが、そこで紡ぎ出される音の、音楽の何と素晴らしいこと。
そこで奏でられる音楽の何と奥深いこと。
ロストロポーヴィッチ氏のような巨匠をして、ここまで追い込ませてしまうというバッハの無伴奏チェロ組曲とはいったい何だろう・・・と思ってしまう。
もともと音楽に対して非常に厳しい方であるということは、他の文献でも読んだことがある。
それでも、この演奏そのものこそが、後世にロストロポーヴィッチのバッハ演奏を語るうえではもとよりのこと、ロストロポーヴィッチという音楽家を語るうえでの重要な要素があるのではないかと思う。
最後に、ロストロポーヴィッチ氏がモスクワ音楽院の学生達に繰り返し言った言葉を引用しよう。
「バッハの組曲を弾くときは、その都度心を引き締めてかかる必要がある。
バッハに慣れてはだめだ。馴れ馴れしく”君”などと呼びかけてはならない」
(先述のロストロポーヴィッチ伝より抜粋)
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