吉野家の牛丼並みの廉価で買える文庫本だが、これが侮れない。文芸評論家の縄田一男が編んだ、市井ものの時代小説の好アンソロジーです。時代小説の初心者にもお勧めできる内容と言えるだろう。
収録作品は、池波正太郎「おっ母、すまねえ」、平岩弓枝「邪魔っけ」、松本清張「左の腕」、山本周五郎「釣忍」、宮部みゆき「神無月」の5篇。それぞれの作風の違いがよくあらわれている秀逸な短篇ばかりを選りすぐっていて、ハズレがない。
時代小説のこの分野の名手であった山手樹一郎や藤沢周平らをあえてはずして、若手中堅の宮部みゆきに大先輩たちと肩を並べるかたちでトリを務めさせたという意外な人選に注目。
それほどに「神無月」は間然するところのない珠玉作です。さらに言えば、映画のカットバックをおもわせる構成のたくらみが最後に生きてくる傑作ミステリでもある。しかしながら、裏表紙と解説の文章が宮部作品にかぎってネタバレになっていることは納得いかない。未読の読者は、まずいきなり収録作の本文を読んでください。
オンエアで観ました。玉木宏さん、佐々木蔵之介さん、映画では割愛された長谷川博乙さんのキャラ、またオリジナルキャラの中谷美紀さん、みなさんとっても素敵な演技でした。美術も昭和30年代(「三丁目の夕日」のころ)がナイーブに作り込まれ、スタッフ陣の絵作りにも、とても好感が持てました。
ところが!久しぶりに74年製作の映画版を観てみると!今から40年近く前の作品なのに、冒頭5分だけでそのクオリティの差にびっくり。
それはその後、霊界の代弁者を務めた丹波哲郎(今西警部補=ドラマ版・小林薫)さんや県知事になった森田健作(吉村刑事=同・玉木)さん、南町奉行を経て「沈まぬ太陽」で総理大臣まで登り詰める加藤剛(和賀=同・佐々木)さんの演技力の差ではありません。特に終盤の玉木さんと佐々木さんとの鬼気迫る心理戦は圧巻でした!
映画版での野村芳太郎監督、撮影の川又昴さんの絵作りは圧倒的!ドラマ版の感激が一気に吹き飛んでしまいました。
何よりも残念なのは脚本。犯人が犯罪に手を染めざるを得なかったもともとの動機が、2011年ドラマ版では大幅に変更され、思いっきりその必然性が薄まっています。原作も映画版も知らない人なら「何でそんなことで恩人を殺さにゃいかんの?」と思うのでは。2011年現在、原作に忠実に製作したら、人権問題で何かと差し障りがでるのでしょうが、「ここ」を割愛したらこの作品は成立しません(罹患者の方々には申し訳ありません)。だから、この時代に、あえて製作するべきではなかった!で結局、出演者さんたちの素晴らしい熱演が、「砂の器」になっちゃった・・・
犯人にとって、もう二度と会うことが叶わない親への心情、そして彼が犯罪を犯してまでも守らなければならなかった情熱が、「砂の器」でしかなかった悲しさ、空しさが本作のテーマであり、多くの人々を感動させたのだと思います。そこが役者さんたちの熱演の割に、映画版よりも伝わってないのが残念。
優れた作品は時代が変わろうとも優れている! この小説のすごいところは起承転結の起の部分ばかりを強調する最近の小説と違い、何気ない男女の無理心中の事件から始まり、汚職、人間関係、病気、女のプライド、刑事達の苦悩など、複雑な登場人物達の感情を中心に、人の先入観による盲点の恐ろしさなどを描いた心理描写がメインの作品である。 娯楽としてのミステリー作品とは一味違う!
ドラマ版「砂の器」で使用された協奏曲「宿命」です。以前映画化もされ、菅野氏による「宿命」がつくられましたが、向こうが「組曲」であるのに対してこちらは「協奏曲」。また映画版とドラマ版での、音楽家としての和賀英良像に違いがあるため、メインのメロディーラインこそ同じものの音楽的にも哲学的にも違うものになっているといえるでしょう。 両者を比べたときに、映画版が孤独と父を表現しているのに対しこちらは重苦しく重厚、そして派手で、和賀の背負っているものとその重さを前面に押し出した曲作りになっているように感じます。映画では深く人と関わらなかったのに対しドラマでは和賀を取り巻く人間も様々で、その中で必死にもがいて生きる和賀自身の宿命を壮大に描いています。和賀自身の"宿命"であり、"父"が表現されているのではないのが決定的な違いであり、ドラマと映画の和賀英良像の違いでもないでしょうか。 映画版のような底知れぬ迫力はありませんが、重いテーマを壮大に表現しているだけに聴きごたえはこちらのほうがあると思います。映画版から入られた方も、テレビ版から入られた方もぜひ聴いていただきたい。できれば、両方とも聴いて聴き比べてほしいなぁと思います。
よくこの音楽は芥川さんの作品だという方もいるんですが、
監修が芥川也寸志さん、作曲とピアノ演奏は菅野光亮さんです。
菅野さんというと、ドラマ「大空港」鶴田浩二主演のテーマが印象に残ってます。
映画では、ピアノが舞台正面に向き、加藤剛さん演じる犯人は客席に背を向けてます。
普通のピアノ協奏曲だとピアノは横向きですので映像的には違和感が少しあります。
演奏はともかく、「宿命」といえばこのテーマですね。
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