料理にスローフードがあるように、映画にもそのようなジャンルがあるとしたら、
この映画はまさしく、スローなムービーだと思う。艶を含んだパステルカラーの
シルクのアオザイの肌触りや、初めて口にしたフォーや生春巻きの食感といった
味わいの映画である。
三姉妹が母の命日に料理を作る「起」から、母は最期に父以外の名を呼んだという
「承」に移り、不倫・浮気・妊娠といった話題に「転」じていくのだが、そこから
穏やかに「結」ぶあたりが、トラン・アン・ユン監督のアイデンティティである。
村上春樹「ノルウェイの森」の映画が、広報発表では来月からクランクインされる。
このトラン・アン・ユンが監督で、日本人が演じるという。 大いに期待したい。
邦題「青いパパイヤの香り」のサントラです。この作品は1950年代びベトナム・サイゴンでの奉公人の少女の成長を通して料理や芸術なども垣間見える内容です。このサントラも穏やかな民族楽器やピアノを主体とした音楽が散りばめられ、涼しげな休日の朝などに聴いてもいいと思います。
今となっては、どこにも存在しない“アジア”のお話です。
1950年代のサイゴン(ホーチミン)が主人公の少女期の舞台。
その後のベトナム戦争や共産化の前、となります。
どう考えても、その後の過酷な時代をベトナムで過ごした“人民”による作ではない。
フランスという外部からの視点を感じます。
しかし、現実離れした世界であるからこそ「記憶の中の…」という宣伝文句が馴染む。
ここでしか成立しえない美しいアジアが描かれます。
過去であり、既に存在していないからこそ描ける世界とでも言いましょうか。
映像の美しさは、ずば抜けています。
どこを切り取っても、優れた1枚の写真になる。
何度観ても新しい発見があります。
記憶の中のアジア。
しかも、現実には近づくことはできない世界。
それをここまで描き切った度胸には、圧倒されます。
必見です。
前作「青いパパイヤの香り」で、トラン・アン・ユン独特の 退廃的な世界に圧倒されたが、この作品は退廃っぷりはその上 を行っている。魔都サイゴンの暗部を、これでもか、これでもか と抉り出してくる。 この作品を観ると、ベトナムに行きたくなくなるかも。
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