仮名遣いを新かなに改めなかったのは大英断。 やはり雰囲気が出ます。 綺堂に限らず、新かなを嫌った谷崎、断じて認めなかった百'閧などは、もとの形のままで出して上げるのが筋なのでは? 二三頁も読めばすぐ慣れるのに、しかもいろいろ不都合な箇所も出て来るのに、なぜわざわざ新かなに改めるのか合点がいきません。
端正なたたずまいの文章の奥の方に、遠く江戸時代の怪異の狐火がゆらめいている綺堂怪奇談。「青蛙堂鬼談」の諸篇と「異妖編」「月の夜がたり」「影を踏まれた女」を収めた岡本綺堂【怪談コレクション】の第一弾『影を踏まれた女』に続く第二弾の作品集。収録作品は、「こま犬」「水鬼(すいき)」「停車場の少女」「木曾の旅人」「西瓜(すいか)」「鴛鴦鏡(おしどりかがみ)」「鐘ヶ淵」「指輪一つ」「白髪鬼」「離魂病」「海亀」「百物語」「妖婆(ようば)」の十三篇。 特に印象に残った短篇は、「白髪鬼」「西瓜」「妖婆」「離魂病」の四つ。「白髪鬼」はラスト四行に、冷水をぶっかけられたみたいにぞっとさせられました。西瓜とあるものとがくるくると入れ替わるところが変に怖かった「西瓜」、霏霏と降り止まぬ雪の音が耳鳴りのように聞こえてきた「妖婆」、どちらもぞくぞくっとしましたね。「離魂病」は芥川龍之介が読んだら震え上がったんじゃないかっていう一種のドッペルゲンガー譚。この話の中に出てくる「自分で自分の後ろ姿を見る話」は、杉浦日向子さんの漫画『百物語』にも載っていました。 巻末に、綺堂の「半七捕物帳」の世界を殊のほか愛し、自身「なめくじ長屋捕物さわぎ」の世界を創り出した都筑道夫氏の解説と、縄田一男氏の解題を収録。
1986年に出たものの新装版。字が大きくなっている。
「雪達磨」「熊の死骸」「あま酒売」「張子の虎」「海坊主」「旅絵師」「雷獣と蛇」「半七先生」「冬の金魚」「松茸」「人形使い」「少年少女の死」「異人の首」「一つ目小僧」の14篇が収められている。
味わいが素晴らしい。淡々とした語り口、怪異なエピソード、生き生きとした江戸風俗、意外な謎解き。いずれも高水準であり、自信を持ってお勧めできる一冊だ。
捕物帳の最高峰だろう。
かねてより名のみ知る存在だったが、キンドル導入のテストとして読んでみた。
半七親分が明治以降も生きていたなんて、知りませんでしたねえ。
テレビの時代劇ドラマ的イメージしかなかったんですが、予想以上にミステリー小説でした。
続きも読みはじめてます。
楽しみがひとつ増えたな。
シャーロックホームズに影響を受けた作者岡本綺堂が
舞台を江戸時代に、探偵を岡っ引に代え仕立て上げた
推理物シリーズ第二巻。明治の世に、若い新聞記者が
岡っ引き上がりの老人半七の昔話を聞くというスタイル。
謎解きのテクニック等は確かに現在のそれに比べると単純かもしれないが、
100年近く前に書かれた点を考慮に入れると決して古びているわけではない。
それ以上に、捕物帳というジャンルを一人で創り上げ、
この作品が未だその頂点に君臨しているのは驚異に値する。
また現代に生きる我々が本書を手にした場合、
この目で見たことも無い江戸の粋な風俗/情緒が
スタイリッシュに、生き生きと描かれている点が
この上なく興味深く、魅力的である。
本書第二巻は13の短編を所収。この辺りの短編になると
岡本綺堂お得意の怪奇譚の香りが加わってくる。
戯曲にもなった『三河万歳』など、当時の風習を知らぬ
我々に取り題名からして良くわからない短編もあるが
やはり圧巻は中篇『津の国屋』。怪談もからめた
ミステリーの醍醐味を存分に味わせてくれる。
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